【リチウムイオン電池講座】<斜め下から掘り下げる>②リチウムはグリースの王者なんです

    みかドン ミカどん前号からスタートした新連載『リチウムの斜め下』シリーズです。以前、当社会長(沢田元一郎)が執筆連載していた、リチウムイオン電池の簡単解説『横からリチウム』の本文から、毎回毎回、気になる?センテンスをピックアップして斜め下から掘り下げてみます。(※このシリーズの全記事はこちら

    当初、リチウムはグリースの添加剤だった

    以下は、会長が書いた『第1回 だからリチウムってなに(怒)!』からの一文です。

    リチウムは初め熱に強い特性を活かして、第二次世界大戦中航空機のエンジン高温グリースの添加剤として使われていました。その為非常に市場は小さく、アメリカ合衆国の小規模な生産現場でほそぼそと作られていました。

    今回は、
    ●リチウムってグリースの材料なの?
    ●リチウムグリースの特長は?
    の2点について、斜め下?から掘り下げます。

    リチウムの工業生産は1923年から

    ウィリアム・トマス・ブランド

    前回書いたように、リチウムの発見者はスウェーデンの化学者であるヨアン・オーガスト・アルフェドソンですが、アルフェドソンは金属リチウムの単離には成功せず、実際に取り出しに成功したのは、英国の科学者 ウィリアム・トマス・ブランドでした。ブランドが1821年に電気分解によって初めて金属リチウムの単離に成功してから約100年後、1923年にドイツのメタルゲゼルシャフト社が溶融塩電解による金属リチウムの工業的生産法を発見し、その後の金属リチウム生産へと繋がっていきました。

    リチウムグリースは万能グリース

    リチウムグリースが発明されたのは1938年です。近年工業的に生産されるリチウムの多くは、南米などに偏在する塩湖の鹸水を天日乾燥し、化学的にリチウム塩と呼ばれる形で得られます。そのリチウム塩がグリースの増ちょう剤として使われるようになりました。

    グリースは液体の潤滑油(基油またはベースオイル)に、とても小さな個体成分を均一に混ぜて半固体状に仕上げた潤滑剤です。正確に書くと、グリースは
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    基油(ベースオイル)
    増ちょう剤(増稠剤。油に混ぜてゲル化する)
    添加剤(追加機能を加える)
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    の3種類で構成されるクリームのような潤滑剤ということになりますが、液状の潤滑油と異なり、耐荷重性が強く、飛散・漏洩が少ないのが特徴で、粘度があるため金属にもくっ付きやすく、摺動部への使用に適しています。リチウム塩はそのうち、油をゲル状にするために加える増ちょう剤のひとつとして使われています。といってもリチウム塩がそのまま直接使用されるわけではありません。
    通常、グリースの増ちょう剤は、金属イオンと石鹸成分が反応して生成された金属石鹸と呼ばれる化学物質の形で油にミックスされます。つまりリチウム塩は「リチウム石鹸」に加工された状態で基油に加えられ、それがリチウムグリースになるんです。

    グリースの増ちょう剤はグリースの性質を左右します。そのため増ちょう剤にも様々な素材が使われていますが、増ちょう剤としてのリチウム石鹸は、耐熱性、耐水性、機械的安定性など最も欠点が少なく、現在は主流の増ちょう剤となっています。今ではリチウムを増ちょう剤に使ったリチウムグリースは、全グリース生産量の50~60%を占めるそうですよ。当初は航空機用の耐熱グリースとして小さな需要しかなかったリチウムグリースですが、開発後は、熱にも水にも強い最初の万能型グリースとして世界で普及し始め、現在では多くの様々な分野で利用されています。

    今回はリチウムの意外なもうひとつの顔について斜めから探ってみました。