【電気を送るしくみの今とこれから】06_電気の流儀②~交流と変圧

    前回、電気の起こし方には2通りあることを述べました。ひとつは乾電池や蓄電池のように物質同士の化学反応によって電気が発生するもので、この場合の電気の流れ方は直流になります。もうひとつは発電機で電気を起こす方法で、この場合の電気の流れ方は交流になります。(※前回参照)電力会社から供給される電気が交流なのは、簡単に書けば、発電機で電気を起こしているからですが、その歴史的な経緯としてエジソン対テスラの電流戦争を外すわけにはいきません。

    電流戦争に敗北した発明王

    The Current War
    エジソン対テスラの電流戦争は2017年に米国で映画化されました

    エジソンは蓄音機の発明や白熱電球の開発、テスラはラジコンや蛍光灯を発明し、共に偉大な発明家ですが、電力システムにおいては考え方が真っ向から対立していました。
    それが拡大して、お互いのネガティブキャンペーンを展開するまで激化してしまったために、のちに電流戦争と呼ばれるようになりました。

    暮らしを変える発明品を次々と世に送り出したことで知られるエジソンですが、最大の功績は発電・送電を含めた電力インフラの一式を開発し、事業化して成功したことです。白熱電球の製品化も実はその一端でした。
    当時の電気は明かりを点けることだけが目的だったので、エジソンは白熱電球を灯すために定電流発電機(直流)を開発し、直流での送配電を推し進めました。
    しかし直流よりも制御が簡単でより広範囲に送電できる、交流システムを開発・提唱したテスラに敗北し、世界中のほとんどの送電が交流で行われるようになりました。

    交流電気は電圧の変換が簡単

    交流送電の遠距離送電を可能にしているのが、変圧という仕組みです。電気を遠くに運ぶためには、高圧で発電し消費地近くで降圧させたほうが効率がよいのです。それを安価で容易に行えるのが交流の特徴です。

    交流発電機は磁石の回転運動で電気を起こすのは前回解説した通りですが、回転運動で発生する電気には波が生まれます。この波が交流電気の変圧を容易にしているのです。

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    左片方のコイルに電気を流すと、離れているもう片方のコイルにも電気が伝わります。このとき、コイルの巻き数に比例して電圧が変わるため、シンプルな仕組みで変圧することができます。これは電気が「磁界の変動で発生する」エネルギーのため、プラスとマイナスが波のように入れ替わる交流で鉄心に磁場が発生し、それを巻き数の異なる片方のコイルで取り出す仕組みです。もしこの

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    変圧器に直流電気を通しても、電気は一方のコイルには伝わりません。それは直流が磁界の変動がない一方向に一定した電気だからなのです。(そのため、実際には片側のコイルが加熱されて焼き切れてしまうそうです)

    私達が家庭や事業所で普段使っている電気は、高圧で発電され、いくつかの変電所で段階的に降圧されながら消費地まで届けられ、最終的に需要家の手前の電柱にある変圧器で、100Vまたは200Vに下げられて供給されています。そのためにはたくさんの数の変圧器が必要になりますが、ご覧の通り、変圧器は仕組みが簡単で費用が安価なことから、数多く設置しても、最終的には安く仕上がるということになります。

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    日本に2種類の周波数がある理由

    (出典:電気エンジニアのツボ

    日本の商用電力(交流送電)は、糸魚川静岡構造線付近を境界として東日本が50Hz、西日本が60Hzに分かれていますが、Hzというのは電気の波の周波数を指しており、発電機の1秒間の回転数に相当します。

    元々、日本の商用電源は、当初エジソンの直流送電システムを導入してスタートしましたが、その後テスラのシステムを採用した米ウェスティングハウス・エレクトリック社の交流システムに入れ替えられた経緯があります。

    その際にまず西日本の電力会社(大阪電燈)がアメリカ製の交流発電機を導入しこれが60Hz対応だったのに対し、それに少し遅れて交流を導入した東日本の電力会社(東京電燈)はドイツ製の交流発電機を輸入したのですが、こちらは50Hz対応でした。

    そしてそれぞれの周辺に次々に設立された電力会社が先行する大手二社のシステムにならった結果、東日本は50Hz主体、西日本は60Hz主体で勢力的に互いに拮抗するという状況となってしまったのです。

    世界的に見ると、ヨーロッパ系は115~240V 50Hz、日本を除くアメリカ系は110V~240V 60Hzで、発展途上国を含めても日本は飛び抜けて低電圧設定かつ2周波数共存という世界的にきわめて珍しい状況となっています。

    次回は整流についてのお話です。