【雑学】『そば』に引っ越してきました



    新生活の季節です。進学や就職に伴っての引っ越しシーズンでもありますが、引っ越しといえば「引っ越し蕎麦」。手伝ってくれた友人や親戚に振舞った経験がある人もいるかもしれません。年越し蕎麦と同じように「細く長く平穏な生活が送れるように」という願掛けとして食べるもの…かと思いきや、本来の引っ越し蕎麦はそうではなかったようです。

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    引っ越し蕎麦という風習が始まったのは江戸時代。引っ越し先の大家や隣近所に挨拶をする際に手土産として配られたものでした。蕎麦は昔から安価だったことに加え、「末永くお付き合いをお願いします」という意味合い、また「『そば』に越してきたのでよろしく」という江戸っ子らしい洒落も含まれていたようです。

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    木と紙でできた家屋が密集する江戸の町では、大火事が頻発していました。多少の備えをしていても火事が起これば役に立たないことから、「宵越しの銭を持たない」江戸っ子気質が育ったと言われます。物を持たない彼らの引っ越しは簡単。家財道具一切を売り払って手ぶら同然で引っ越し先に向かい、必要な物は買うか生活用品を貸し出す損料屋でレンタルしていたそうです。ただし、よそ者に冷たい日本文化の中では隣近所と親しく付き合うことがとても大切。長屋の中から罪人が出れば連帯責任を取らされてしまうので、大家も入居する人物を慎重に見極めていました。信頼関係を作るためにも、大家といわゆる「向こう三軒両隣」に配る引っ越し蕎麦は、江戸っ子の新生活において重要な役割を果たしていたのかもしれませんね。

    ちなみに当時は今のような乾麺はないため、腐ってしまう生蕎麦や茹でた蕎麦ではなく、蕎麦屋に持っていけば食券のように使える「蕎麦切手」を配ることが多かったそうです。※右の写真は「蕎麦切手」。塩町の園山屋と書いてあります。




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