【リチウムイオン電池講座】<斜め下から掘り下げる>③知ってる?リチウム電池は「イオン」の有無で大違い

    みかドン ミカどん当社会長(沢田元一郎)が連載していた、リチウムイオン電池の簡単解説『横からリチウム』の本文からテーマをピックアップして、リチウムイオン電池の小ネタを書いていく『リチウムの斜め下』シリーズです。今回はリチウム一次電池についてです。(※このシリーズの全記事はこちら

    リチウム電池の本格的な普及は1980年代ですが・・・

    以下は、当社会長の沢田元一郎が書いた『第1回 だからリチウムってなに(怒)!』からの一文です。

    1980年代腕時計やゲーム機用としてリチウム一次電池が使われだすと、需要が平和的に再び伸び始めます。

    今回は、上記の一節をテーマに取り上げ、
    ●最初のリチウム電池はいつ登場?
    ●リチウム一次電池ってなに?
    の2点について、斜め下?から掘り下げます。

    リチウムを電極につかう研究・開発は1970年代に始まりました

    ギルバート・ニュートン・ルイス(出典:Wikipedia)

    リチウムをエネルギーに活用するための前段となる研究は、アメリカの著名な物理化学者 ギルバート・ニュートン・ルイスが1912年に行っていました。
    化学熱力学や原子価理論を研究していたルイスは自分の専門分野の研究の一環として、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、塩素、臭素、ヨウ素、酸素、水銀、銀、タリウム、鉛、鉄などの元素の電極電位を、それまでとは異なる高い精度で測定し、強電解質イオン活性の計算を行いました。
    しかしそれは、民生品への応用を念頭に置いたものではなく、あくまでも原子が結合したときの電子の挙動を調べる学術的なものでした。

    マイケル・スタンリー・ウィッティンガム(出典:batteriesinternational)

    1970年代の初め、ルイスの研究を基に、世界で初めて電池の極材にリチウムを用いたのは、マイケル・スタンリー・ウィッティンガム(英)です。
    ウィッティンガムは、石油枯渇後の生き残りをかけて、代替エネルギーを真剣に模索し始めたエクソン社の目に留まり、31歳のときに招聘されて、1972年に同社の研究施設に入り、世界で初めてリチウム電池を発明しました。しかし、リチウムの不安定性を解決できずにいました。

    その間、パナソニックがフッ化黒鉛リチウム一次電池を先に開発し、1976年にはナイトフィッシング用に電気ウキ用ピン形リチウム電池を発売しました。パナソニック社の資料によると「1971年世界に先駆けて、民生用リチウム電池の開発・量産」とあるので、リチウム一次電池の分野では、パナソニックが世界で初めて商品化に成功した、と言えるのかもしれません。

    この記事を提供しているのはGSユアサ代理店のミカド電装商事です

    リチウム電池(一次電池)は乾電池と同じしくみ

    さて、ウィッティンガムが目指したものはリチウムイオン電池(二次電池)でしたが、実際に世に出たのはリチウム電池(一次電池)のほうがずっと先でした。

    そもそも、リチウム電池とリチウムイオン電池はどこが違うのでしょうか?

    同じリチウム電池でも、名前に「イオン」が付いていない電池と「イオン」が付いている電池では用途も見た目もしくみも大きく違います。

    簡単な区分では、単にリチウム電池というときは、使い切りタイプの電池で一次電池と呼ばれるものを指す場合が多く、形状もボタン電池が一般によく知られています。

    リチウム一次電池のしくみ
    リチウム一次電池のしくみ

    リチウム電池はお店で普通に売られている電池なので、用途も乾電池と同じです。もっとも広く使われているリチウム一次電池は正極に二酸化マンガン、負極にリチウムを使った二酸化マンガンリチウム電池で、中でも普及しているコイン型リチウム(CR系)一次電池は、時計、電卓、小型電子ゲーム、ICタグ、ICカード、各種メモリーバックアップ、電子体温計、キーレスエントリー(車載用機器)、電子手帳(PDA)、LEDライトなど、様々な小型機器に多岐にわたって用いられています。

    金属の中で一番陽イオン化傾向が大きいリチウムを電極に使うと高い出力電圧を得られます。そのため通常のマンガン乾電池の公称電圧が1.5Vなのに対し、リチウム一次電池は3Vです(1.5Vの製品もあります)。また、金属の中で最も軽いので重量当りの電力容量も大きくなり、電池の残量が減っても電圧が下がらない、自己放電が少なく長期保存に向く(10年経過しても90%の容量を維持)という特長があります。

    ところが優れた特徴を持つリチウム電池ですが、水や酸素に対する反応性や、充電後にリチウム電極に樹枝状の結晶ができる問題など、リチウムを何度も使える充電可能な二次電池の極材として使うには課題が山積みでした。海外で「充電式リチウムイオン電池の創始者」と呼ばれているウィッティンガムも、なかなかクリアできなかった部分が、まさにそこだったのです。

    リチウム”イオン”電池は車のバッテリーのイメージ

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    (画像:産経新聞)

    そこで、リチウムそのものを極材につかうリチウム一次電池(使い切り電池)の発想から離れ、リチウムの化合物や酸化物などを極材に使用して、リチウムがイオンの状態で正極と負極の間を移動できるようにしたのがリチウムイオン電池です。

    イオンというのはプラスやマイナスの電荷を帯びた原子のことですが、溶液に異なる2枚の金属板をひたすと,イオンになりやすさの違いから電子が移動して電流が流れます。そして充電するとリチウムイオンはまた元の極に戻ります。

    このアイデアによって、初めて充放電が可能なリチウムの二次電池が誕生しました。そして携帯電話やパソコンやカメラなどのように繰り返し充電して使う精密機器に使われるようになりましたし、現在では電気自動車の性能を左右する重要なファクターにもなっていますよね。

    以上のように、リチウム電池は名前に「イオン」が付くか付かないか、で見た目も用途も仕組みも違うため、それまでのリチウム一次電池(使い切り)と区別して、リチウムをイオンとして移動させて充放電する二次電池のほうを、リチウム”イオン”電池と呼んでいるわけです。

    そして、リチウムイオン電池の開発では日本人が大活躍しているんです。詳しくは以下をご覧ください。

    世界初のリチウムイオン電池は日本製