エネマネことばの窓01~二度目標~

    エネルギーマネージメント「ことばの窓」

    みかドン ミカどん新聞やニュースでよく見かけるけど、何かとわかりにくいのでついスルーしているエネルギーマネージメントの様々な言葉の意味を、今月から簡単解説していきたいと思います。(すべての記事はこちらです)

    二度目標

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    大気中の二酸化炭素濃度が上昇し続けています

    二度目標は、二度目の目標や、目標を二度掲げる事ではありません(私は最初そう思っていました💦)。

    二度目標の二度は温度の2℃です。二度目標と言うのは、世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べてセ氏2度未満に抑えるという世界的な目標です。この目標は、2015年のパリ協定という国際協定で採択され、2016年の11月に発効しました。

    産業革命以降、化石燃料の使用が増え、その結果、大気中の二酸化炭素の濃度も年々増加しています。石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料をつかうと二酸化炭素が発生しますが、気象庁のサイトによると、世界の大気中の二酸化炭素の濃度は、産業革命前後の平均と比較すると46%も増加したそうです。

    二酸化炭素は地球の熱を宇宙に逃がさない働きを持ち(地表から放射された赤外線の一部を吸収する性質による)、本来は有益な気体だったのですが、その効果が逆に今は地球を温暖化させる原因となり、メタンやフロンなどと共に温室効果ガスと呼ばれています。

    気象庁の観測点における二酸化炭素濃度および年増加量の経年変化(出典:気象庁

    二度の平均気温上昇をあなどってはいけない

    私は寒がりなので、平均気温が上がるならむしろ歓迎したい気持ちになってしましますが(汗)事態はそんな単純なものではなさそうです。

    世界の平均気温が二度上がるということは、思った以上に、暮らしへの影響がとても大きいのです。

    身近なところでは、まず、生態系が変わります。日本で言えば、美味しいコメの主産地は北日本に限られてしまい、黒潮と親潮のぶつかる地域(潮目)も変わって、その地域で獲れる魚の種類が変わります。

    これが世界的に起こりますから、世界の農産物・海産物の事情が大きく変わります。現在の一次産業の輸入・輸出の相手先や取引量なども大きく変わります。ちなみにサンゴなどは平均気温が二度上昇すると死滅すると言われています。

    気温一度は距離に換算すると南北100Kmの差に相当するそうです。二酸化炭素排出量が特に多い東京ではこの100年で平均気温が5℃上昇したという説もあり、その場合、現在の東京都は100年前の鹿児島県の南端と同じ気候になるそうです。もしかして今なら、ヤシやシュロも育つのかもしれません。

    地球温暖化で平均気温が上がり、寒冷地の氷河が溶けて海面が上昇してしまう危険性は、以前から指摘されていましたが、調べてみると水位上昇の推定値は60cm前後のこと。

    海面が60cmも上昇すれば、世界中で海辺では暮らせない人たちが多数出てきます。またマラリアなど熱帯地域特有の伝染病が日本で発生する危険性を指摘する人もいます。

    近年の猛暑や集中豪雨などの異常気象も地球温暖化と密接な関係があり、国内外の災害の有無だけでなく、それによって農産物・海産物の世界的な需給バランスが崩れて起こる食糧不足も懸念されています。

    2℃ではなく1.5℃以内がベスト

    (画像出典:BBC NEWS JAPAN

    パリ協定で採択された二度目標とは以下のようなものです。

    世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること

    実は2℃よりも1.5℃未満に抑えた方が、環境への影響がはるかに少ないのです。しかし、現状では二度目標はおろか、このままでは4℃まで上がってしまう勢いだそうです。安全圏ともいえる1.5℃の上昇には早ければ2030年には到達してしまうというレポートもあります。

    それを阻止するためには思い切った施策が必要で、専門家によれば「2030年までに温室効果ガスの排出をほぼ現状の半分」にして、「2050年には実質ゼロ」にすれば可能という試算になるそうです。

    温室効果ガスゼロということは、石油・石炭・天然ガスを一切使わないエネルギー社会を2050年までに実現させるということです。ということは、ガソリン車はあと30年でなくなり、発電所はすべて再生可能エネルギーになり、いま私たちが燃料と呼んでいるものは一切無くなってしまうということ???そんなことは可能なんでしょうか?

    ですが、世界レベルではそこに対して真剣に討議が交わされています。

    これを不可能、と決めつけるのは簡単です。

    しかし、私が参加した韓国におけるIPCCの会合では、世界195か国の政府が一堂に会して、この1.5度報告書を真剣に検討して、承認していく有様を目の当たりにしました。

    世界の温暖化対策は、この1.5度報告書の登場とともに、1.5度がこれからのキーワードになってくる勢いを感じました。

     これは、昨年(2018)のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)会議に参加したWWFジャパンの小西雅子さんのレポートです。世界は二度目標よりもハードルの高い1.5度を目指して、より大きくより激しい変化を模索しているようにも思えます。

    日本は(二度目標を含む)パリ協定の批准が他の国より遅れ、協定の内容に対して発言権を失うなど劣勢に立ってしまいましたが、脱退を表明して物議をかもしたトランプ氏のアメリカ以外の各国は、日本以上に強い危機感と問題意識を持っていると言えそうです。

    自国の石油産業を守りたいアメリカですが、国内では危機感を持って温暖化に取り組んでいる州がいくつもあります。パリ協定の正式な離脱には3年かかり手続きにも1年かかるということなので、アメリカはまだ脱退はしておらず次の大統領の判断が注目されています。

    二度目標は科学的な見地からの警鐘ですが、エネルギーを中東に依存したくない国々の思惑と一致しており、それが各国の姿勢や温度差に現れているのかもしれません。

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