驚異のエネマネ新技術(05) ~「宇宙の寒さで発電」する技術って?~

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    面白い記事を見つけました。

    「宇宙の寒さ」から直接エネルギーを生み出す技術が開発される – GIGAZINE
    https://gigazine.net/news/20190509-electricity-coldness/

    宇宙の寒さから直接エネルギーを生み出す技術とは?以下にGIGAZINEの記事の一部を引用いたします。

    「宇宙の寒さ」から直接エネルギーを生み出す技術が開発される

    「宇宙の寒さ」を利用した発電技術を発表したのは、富士フイルム先進研究所の小野雅司氏らの国際研究チームです。この技術では、宇宙空間に向けたフォトダイオードを使用して寒暖差からエネルギーを得ることが可能だとのこと。

    (省略)

    この技術では、熱が物体から放射される際に発生する「negative illumination effect(負の照明効果)」により生じる、わずかな電気を集約してエネルギーに変換するのだとのこと。ただし、2019年現在のところ、絶対零度からほんの数度だけ温度が高い場所でしか電気を発生させることができません。

    (省略)

    実用的な発電量ではないものの、研究チームは既に1平方メートルあたり約64ナノワット(10億分の1ワット)の電気を発生させることに成功しています。また、理論的には1平方メートルあたり約4ワットの電力を生み出すことができるとのことで、実用化されれば人工衛星や宇宙探査機などに搭載し、地球や天体の影に入ってしまって太陽光発電ができない時の補助電力などに利用できそうです。

    掲載記事の元々の出典は、米国物理学協会が発行している査読付きの学術雑誌Applied Physics Lettersの4月23日付けの記事です。
    著者は、”Masashi Ono, Parthiban Santhanam, Wei Li, Bo Zhao, and Shanhui Fan”の5名になっているので、富士フイルム先進研究所の小野雅司氏は筆頭著者(貢献度ナンバーワン!)で、スタンフォード大学のシャンフイ・ファン氏がラストオーサー(研究プロジェクトのボス)ということになりそうです。
    そのためこの記事について検索してみると「スタンフォード大学の研究チーム」と紹介しているブログもありました。

    宇宙と地球の温度差を利用

    さて”「宇宙の寒さ」から直接エネルギーを生み出す技術”とはいったいどういうことなのでしょうか?調べてみると、宇宙の寒さの中にエネルギーがあるわけではなく、元々は宇宙と地球の大きな温度差を利用し、地球から宇宙に向けて放射される熱によって電力を生み出す発想のようです。

    そもそも温度というのは分子の振動ですが、宇宙空間には分子がほとんどないので温度もありません。その状態を絶対零度(0K=-273.15℃)と呼びます(正確には分子や原子の運動が完全に停止した状態。実際の宇宙空間には極微量の分子があるため3K=-270℃)。

    地球はそんな超低温の宇宙空間に浮かんでいるわけですから、当然、地表から宇宙に向けて熱が逃げ出しており、その放射熱をつかまえて発電するのが今回発表された仕組みです。

    概略図を見てもよくわかりませんが・・・

    この技術では、熱が物体から放射される際に発生する「negative illumination effect(負の照明効果)」により生じる、わずかな電気を集約してエネルギーに変換するとのこと。

    以下がその概略図です。

    概略図_1734

    残念ながらこれを見ても当編集部では何がなんだかさっぱりわかりません。それでも頑張って(?)個々に調べていくと・・・

    Peltier stage(ペルチェステージ)のペルチェというのは、直流電気を通すと両面に温度差が発生し片側が熱くなって片側が冷たくなる半導体素子のようです。逆も可能で、ペルチェ素子の両面に温度差をつけると、素子に電流が流れます。

    Heat sink(ヒートシンク) 吸熱または放熱のための部材

    Thermistor(サーミスタ) 温度の変化により、抵抗値が変化する電子部品

    Photodiode(フォトダイオード) 光の入力に応じて蓄電容量が変化する半導体素子で、光信号を電気信号に変換します。太陽電池と同じしくみで、光検出器として使用されます。

    BaF2 window(フッ化バリウム窓) 赤外線の透過が大変優れているフッ化バリウムという素材のガラス窓

    Optical chopper(光チョッパー) 光を変調する精密機器

    Parabolic mirror(放物面鏡) 内面(断面)が放物線になっている凹面鏡

    Axis view 軸方向から見た輪切り図

    Clear sky 晴れた空

    熱と光と電気の関係

    サーモグラフィ概略図を見ると、熱や光や電気に関する部品がそれぞれに入り乱れて、余計に混乱してきますが、実は、物質はどんな物質でもすべてが、その温度に見合った電磁波を放射しています。
    太陽は光(可視光線)を地上に届けてくれますし、人のからだが赤外線を放出しているのは、サーモグラフィの映像などでもおなじみですよね。

    同様に地表からも赤外線という電磁波が放射されていますが、”電磁波”という名前の通り、それは電気と磁気の波なのです。
    つまり熱と光と電気には相関関係があり、今回考案されたシステムはもしかしたら、放射冷却で宇宙に逃げていく熱(赤外線)をとらえて各種の半導体で電気に変換する技術と言ってもいいのかもしれません。

    太陽光発電は宇宙から届く太陽の光を電気に変換するものですが、このシステムはその真逆で、地表から宇宙に放射される赤外線を電気に変換します。
    太陽光発電は太陽のエネルギーを必要としますが、こちらは広大な宇宙の極低温を活用したものなので太陽がなくても発電が可能です。

    宇宙空間でなら実用化可能?

    けれど最大の課題はあまりにも低すぎる効率の悪さです。
    当初の計算では夜間の発電も賄える分量の4ワット/平方メートルが得られると推測していましたが、実際に得られたのは64ナノワット/平方メートルという超微量の電力。これはソーラーパネルが平均して100〜200ワット/平方メートルの電力量を生み出すことを考えれば、実用化には程遠いことがわかります。(出典:ナゾロジー「宇宙の「冷たさ」から電力をつくる装置が発明される」

    これでは夜中の冷え込みで発電することはできそうにありませんが、ほぼ絶対零度に近い宇宙空間の真っただ中であれば、活用が見込まれるそうです。
    超微量ながらも発電自体には成功している新技術なので、実用化されれば確かに、人工衛星や宇宙探査機が地球や天体の影に入って太陽光発電ができない時の補助電力などに利用できそうですね。

    「宇宙の寒さで発電」する技術とは、宇宙空間への熱放射を電気に変える技術と言い換えてもよさそうです。余談ですが、今年の3月には人体の熱を利用して発電する熱電素子を韓国の電子情報通信研究所が開発したことも最後に付け加えておきます。

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