驚異のエネマネ新技術(08) ~豪州の褐炭を水素化して日本で流通させる~

    豪州ラトロブバレーの褐炭
    (ラトロブバレーの褐炭。画像:HySTRA2019 YouTube動画 より)

    豪州褐炭から水素を取り出し日本で流通消費させるプロジェクト

    オーストラリアの褐炭から水素を取りだし、日本のエネルギーとして利用する実証計画が進行中です。水素社会を実現する燃料源として、ビクトリア州ラトルブバレーの炭鉱から採掘される褐炭を利用し、日本に運搬して商用化するのが狙いです。

    褐炭とは、十分石炭化していない未成熟で低品位の若い石炭のことですが、水分や不純物を多く含み効率が悪く、乾燥すると発火の危険があるため輸送に適さないなどの難点があるため、世界的な流通はほとんどなく、今までは地元に建設した発電所で消費するしか使い道がありませんでした。
    また、採掘が露天掘りであることから環境破壊が懸念されたり、近年では、燃焼時に多くのCO2や煤煙を出す燃料である点が問題視されていました。

    HySTRA2019
    (画像:HySTRA2019 YouTube動画 より )

    ですが実は、世界の石炭埋蔵量の半分はこの褐炭なのです。石炭埋蔵量世界第4位(2015)を誇るオーストラリアも例外ではなく、化石燃料への世界的な逆風を受けて石炭の輸出量が年々減少しているばかりでなく、より環境負荷の高い褐炭火力発電所は次々と閉鎖を余儀なくされていました。オーストラリアにとって褐炭はお荷物になりつつあったのです。

    日本の「褐炭水素プロジェクト」は、このオーストラリアで未利用の資源から①水素を取りだし、②日本に運搬して、③貯蔵し、④サプライチェーンを構築、するための実証実験です。

    日本は2014年に経済産業省が「未利用資源褐炭からの水素製造」「水素発電」を明記したロードマップを作成し、2015年のCOP21首脳会議で安倍首相が「CO2フリー社会に向けた水素の製造・貯蔵・輸送技術」の技術開発推進を世界に向けて表明するなど、水素の活用に重点を置いた施策の展開を計画しており、両国の協同開発の詳細な経緯はわかりませんが、”持てる国”と”持たざる国”の利害が、ここにきて一致したようです。

    豪州ビクトリア州褐炭由来の水素は安価でCO2フリー

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    (画像:THE SANKEI NEWS より)

    石炭は、主に炭素、酸素、水素からできており、プラントで水素を取り出す技術はすでに確立しています。ですが、高コストであることや、同時に排出される二酸化炭素などがネックとなり、開発の進捗が停滞していた分野です。

    ところが、安価な褐炭を使うことで未来への展望が開けてきました。CO2の問題も今回のプロジェクトの対象になっているオーストラリアビクトリア州のラトロブバレー褐炭田に関していえば、 約80キロ先の沖合に枯渇しかけた海底油田があるので、そこに大規模な貯留(CCS)が可能です。つまりオーストラリアのCCS(CO2海底貯留技術)と組み合わせればCO2フリーの水素が安価で入手できるため、運搬船が日本の港に接岸するまでのコストは1立方メートルあたり29.8円と、液化天然ガス(LNG)よりは高いものの、太陽光や風力といった再生可能エネルギーを下回る可能性が出てきました。

    そこで日本では、国策を背景とするNEDOの支援により、「技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構」がつくられ、2020年代半ばの商用化を目標に、現在は実用化を検討する段階に入っています。日本側の水素受け入れ基地は、川崎重工が中心となり神戸空港島に建設が開始されました。

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    (神戸空港島に建設中の液化水素受け入れ施設。画像:HySTRA「事業進捗の説明(PDF)」より

    「技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構」は「HySTRA」(ハイストラ)という略称で、設立時の組合員は4社でしたが、現在は6社に増えています。現在の構成員と現時点での各社の役割は以下の通りです。(丸紅は2018年10月1日、JXTGエネルギーは2019年8月1日に加入しました)

    各社の役割「HySTRA」(ハイストラ)
    (画像:HySTRA HPより)

    専用船をつかった液化水素の海上運搬は世界初の取り組み

    液化水素運搬船イメージ
    (液化水素運搬船の完成イメージ。画像:川崎重工: 企業CM『技術の進化に終わりはない』篇 より)

    今回のプロジェクトの開発の中心は、オーストラリアの褐炭から取り出された水素の海上輸送です。水素は気体のままではかさばるため、冷却した液化水素として運ぶ計画ですが(体積は800分の1に縮小)、すでに輸送実績のあるLNGの液化温度が-162℃なのに対し、液化水素は-253℃とはるかに低く、難易度の高い造船技術が必要になります。

    そのため、専用船をつかった液化水素の海上輸送はまだ例がなく、今回の実証船が世界で初めての取り組みになります。
    船の製造を担当するのは、LNG運搬船ではすでに多くの実績があり、ロケット打ち上げ基地でも水素プラントを手掛けた川崎重工です。

    このプロジェクトが実用化されれば、2隻が運搬船が1年間、オーストラリアとの間を行き来しただけでFCV300万台分のエネルギーをまかなえる計算とのこと。そして、ラトロブバレー地域の褐炭の埋蔵量は日本の総発電量の240年分に相当するそうです。

    HySTRAでは、海上輸送を川崎重工が担当するほか、液化水素に強みを持つ岩谷産業が、液化設備と荷役設備を担当し、褐炭ガス化技術と水素精製設備をJパワーが担当するなど、各社が総力を挙げて、神戸が世界でも類を見ない大規模水素サプライチェーンの要所となることを目指しています。

    (ミカドONLINE編集部)


    出典:
    石炭が水素を生む!?「褐炭水素プロジェクト」(資源エネルギー庁)
    海外連携による水素エネルギーサプライチェーンの実現に向けた取り組み(川崎重工)
    技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)ホームページ
    脱炭素化の新たな選択肢~石炭から水素の安定製造目指し、日豪約9000キロを結ぶサプライチェーン構築へ~(THE SANKE NEWS)
    など。