エネマネことばの窓10~グラフェン電池。貼って剥がした新素材~

    エネルギーマネージメント「ことばの窓」

    みかドン ミカどん2021年の末までにサムスンから新素材の電池を搭載したスマートフォンがリリースされるのではないかと言われています。それが夢の新素材と呼ばれるグラフェンをつかったグラフェン電池です。ではグラフェンとはいったいどんな素材なのでしょうか?(※このシリーズのすべての記事はこちらです)

    グラフェンとグラファイトは同じものです

    Graphen
    (画像:Wikipediaより)

    「驚異の素材」「夢の新素材」などと呼ばれているグラフェンですが、その実態は炭素です。中身も鉛筆の芯の原料になっている黒鉛(グラファイト)と同じもので、元素記号は単純に「C」のみです。簡単に言えばグラフェンとは、層状で剥離しやすい性質を持つグラファイトを原子一つ分の薄さで剥がしたものなのです。

    そのため大発見の画期的な素材というわけでは決してなく、その存在自体は従来からよく知られていました。2004年に英国マンチェスター大学のアンドレ・ガイム氏らが初めてグラファイトからグラフェンの剥離に成功したとき、それを見た著名な女性物理学者のミルドレッド・ドレッセルハウス女史は「こんなもの、私、昔から知ってたわ」と言ったとか。

    しかし優れた特徴があることがすでにわかっていても最近まで実用化が進まなかったのは、それまで原子ひとつ分の薄さでグラファイトを剥がす手法が確立しておらず、研究が理論だけにとどまっていたからです。

    その状況に突破口をもたらしたのが前述のアンドレ・ガイム博士とコンスタンチン・ノボセロフ博士でした。二人はなんとスコッチテープ(セロハンテープのような粘着テープ)をグラファイトに貼って剥がすという原始的なアナログ手法で剥離に成功し、世界で初めて安定的にグラフェンの現物を手にしました。そして様々な特性を実際の検証で明らかにしたため、その功績に対して2010年にノーベル物理学賞が与えられたのです。(この事実は当時「セロテープでノーベル賞?」と話題になりました)

    これが契機となり、世界中のグラフェン研究が一気に加速しました。その結果、期待通りの驚くべき性質や今まで知られていなかった意外な特性が明るみになり、グラフェンはここに来てようやく「夢の新素材」「驚異の素材」ともてはやされるようになりました。

    また、両氏が用いた「スコッチテープで貼って剥がす」手法はスコッチテープ法と名付けられ、手軽で簡便であることから応用が広まり、今では多種多様な層状物質の剥離に使われるようになりました。

    ▼スコッチテープをつかったグラフェンの剥離例

    グラフェンの登場でスーパーキャパシタが急浮上

    黒鉛の一層分がグラフェン
    (画像:ViCOLLA Magazine の画像に一部加筆)

    グラフェンはグラファイトを剥がして得られる1原子分の厚さの単層シート状物質です。炭素原子が六角形のハニカム格子状に配置され厚みは約0.34nm(ナノメートル=1メートルの10億分の1)という想像もつかない薄さです。

    それでも壊れないのは、 面内の共有結合が非常に強靭で、同じ炭素の同素体であるダイヤモンドよりも高い引っ張り強度があるからです。そしてとてもしなやかなので折り曲げることができ、可視光に対しては透明です。そのため、新しい半導体材料や、フィルム、センサー、バッテリーへの利用や生物工学への応用が期待されています。

    日常の範囲を超えて物質を極限まで小さくしていくと、それまでとは全く違った性質が現れますが、グラフェンも三次元(立体)だったグラファイトが二次元(平面)になったことで、グラファイト(黒鉛)にはない特徴が脚光を浴び始めました。

    それは電気や熱をとてもよく通すということです。グラフェンの電気の伝導率は銀より高く、熱の伝導率は銅の10倍くらいです。加えて、今までの素材より比表面積がとても大きいので、電池分野でのグラフェンは、化学変化で電気を蓄える従来型の電池ではなく、電気を電気のまま蓄えるスーパーキャパシタの極材として注目されるようになりました。

    キャパシタはコンデンサの別名で、電気を蓄えたり放出したりして電子回路を制御するお馴染みの部品ですが、この機能を強化すれば電子部品としてではなく、電池として使えるはずだという発想のもとで、スーパーキャパシタ(電気二重層キャパシタ=EDLC)が開発されてきました。

    スーパーキャパシタは出力密度が大きく,瞬間的に大きな力を発揮でき,急速の充放電も可能です。けれど、エネルギー密度が小さいため,大容量の電気を長時間使用する用途には適さないと考えられてきました。ところが近年、今まで極材につかっていた活性炭素よりも、もっと優れたグラフェンが登場してきたため、スーパーキャパシタの研究がにわかに活気を帯び、今後リチウムイオン電池に代わる次世代の蓄電デバイスになるのではないか、とも言われています。

    スーパーキャパシタとは?

    スーパーキャパシタ
    (画像:松定プレシジョンより)

    正極と負極と電解液の化学変化で充放電する従来の蓄電池と異なり、スーパーキャパシタでは電圧をかけたときに両極に引き寄せられて移動する電子イオンをそのまま蓄えたり放出したりします。

    グラフェンスーパーキャパシタの特長
    ●劣化が少なく数百万サイクルの充放電が可能
    ●出力密度が高く、急速(大電流)充放電が可能
    ●充放電効率が高く出力密度1kW/kgでも95%以上の出力効率が得られる
    ●構成材料に重金属を使用していないため環境に優しい
    ●異常時の安全性が高く、外部短絡しても故障しない

    化学変化を伴わないので劣化が起きにくく、重金属を使用しないため環境にも優しいデバイスです。「安全で丈夫で長持ち」が見込まれることで製品の寿命が延び、省資源や産業廃棄物の削減にも効果があります。

    2021年までにグラフェン電池の搭載が噂されているサムスン製のスマートフォンの場合は、現在主流のリチウム電池にくらべると、約45%の容量アップが見込め、 満充電まで30分かからないとのこと。ですが、長時間電力を保持できない弱点があるため、もしかして充電頻度が増すのではないか?など、評価は未知数です。

    グラフェンをつかったスーパーキャパシタ(電気二重層キャパシタ)は、夢の素材と言われる一方で、量産手法がなかなか確立せず、商業利用がいまだに実現していません。ですが、低コストで大量生産することが出来れば巨大産業化が期待出来ることから、世界中の国や企業がグラフェンの研究・開発に投資しており、今後、研究開発競争が激化していくものと見られます。

    グラフェン電池はすでにいくつかの海外メーカーがクラウドファンディングを利用して製造に乗り出していますが、サムスンのスマートフォンがいったいどんなものなのか、世界中から熱いまなざしが注がれていることだけは間違いありません。

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