エネマネことばの窓15 ~V2HはEVの大容量蓄電池を自宅でも使うしくみ~

    エネルギーマネージメント「ことばの窓」

    みかドン ミカどん「V2H」という言葉をご存じですか?ブイトゥーエイチ(エッチ)またはブイツーエイチ(エッチ)と読み、「クルマ(Vehicle)から家(Home)へ」を意味するこの言葉は、電気自動車(EV)の大容量蓄電池に蓄えられた電力を、家庭用に有効活用する考え方を表しています。今回は卒FITやエコカーの新しい可能性として注目が高まっているV2Hについてご説明いたします。

    2012年に日産とニチコンが世界で最初のV2Hシステムを発売

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    (画像:レスポンスより)

    日産が電気自動車「リーフ」を初めて発売したのは2010年12月です。そして、その2年後(2012年6月)にニチコンが開発した「LEAF to Home」という装置が発売されました。同社では「LEAF to Home」を”システム”と呼んでいるので一般の方には実体がわかりにくいと思いますが、本体はいわゆるEV用のパワコンです。「LEAF to Home」はEVの大容量バッテリーに貯めた電気を一般住宅の分電盤に接続するためのものなんです。発売時のニュース記事は以下のアーカイブでご覧ください。

    「日産リーフ」から住宅へ電力供給する「LEAF to Home」販売開始

    上記のニュースを見てみると、V2Hという言葉もまだ使われておらず、ピークシフトによる電気料金の節約をメリットの一番目に掲げていますので、発売当時は「ピークシフト」に関心がある法人の利用を想定していたようにも思えます。

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    しかし昨年からV2Hを取り巻く状況が大きく変わりました。

    住宅用太陽光発電の固定価格買取制度(FIT)が2019年以降に順次満了(10年間)を迎えることになり、いままでご自宅の屋根などに取り付けた太陽光パネルで売電していた方は、(ざっくりいえば)今後は自家消費にするか、または新たに別な事業者と契約してとても低い価格で売電を継続するか、いずれかの決断を迫られることになったのです。

    一般的な概算では、低い買取価格で新たな買取事業者に売電するよりも、自家消費して電気代を節約した方がお得という見方が多いのですが、その効果を上げるためには家計にとって負担の大きい高性能蓄電池の新設が欠かせません。

    電気はその性質上、「今ここで配線の中を流れ去っていくものだけがすべて」なので、”蓄電池がなければ” いくら日射の強い日にソーラーパネルがパワフルに発電しても、そのエネルギーをとどめておくことができません。つまりそのままの状態では、発電と同時のリアルタイム売電か、または発電と同時のリアルタイム自家消費か、そのどちらかなのです。(※当社の存在意義も元々はそこだったりします^^)

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    (画像:EVsmartブログより)

    であれば、それだけのために家計の負担になる高性能な蓄電池を単体で購入するよりも、太陽光で発電した電力を電気自動車の大容量蓄電池にひとまず溜めて、そこから必要に応じて取り出せばいいんじゃない?というのがV2Hの発想です。

    電気自動車(EV)には一度の充電で何100キロという走行距離を可能にする桁違いの蓄電池が搭載されているので、わざわざ家庭用蓄電池を新設しなくても、卒フィット後の太陽光発電は電気自動車と組み合わせることで再び価値を生み出すのではないか?と考えられています。

    それをこれからのビジネスチャンスととらえた自動車会社や車載コンデンサメーカー、そして2030年までには次世代自動車(EV、PHV、HV、FV等)を最大7割まで引き上げることを目標としている政府などが近年、V2Hの推進に力を入れ始めました。

    現在では日産に提供した「LEAF to Home」で世界で最初にVC2システムを開発したニチコンや三菱電機がシステムを販売し、日産ほか、三菱自動車からもVC2対応の電気自動車が出ています。ちなみにV2H機器の導入には補助金を出している自治体が多いのですが、当宮城県でも補助金の対象になっています(今期は終了)。

    平成31年度スマートエネルギー住宅普及促進事業補助金について

    電力の使い道で選ぶ、2タイプのV2H機器

    さて、家庭からクルマへの充電や、クルマから家庭への給電を行うV2H機器ですが、太陽光発電システムの設置の有無や、発電した電力の使い道によって選べるタイプが異なります。

    非系統連系

    (画像:省エネドットコムより)

    まず1つは「非系統連系」。これは、太陽光発電を未設置、または設置済みであっても、太陽光発電を「売電」にのみ利用しているケースに適しています。ただし、EV/PHVからの給電中は電力会社からの電気を利用することができません。注意点として、電気使用量がEVからの給電量を上回ると給電は停止し、電力会社からの電力供給に切り替わる際に瞬時停電が発生してしまうことが挙げられます。

    系統連系

    (画像:省エネドットコムより)

    もう1つは「系統連系」。このタイプを使えるのは太陽光発電を既に設置済みで、発電した電気を自家消費している家庭。太陽光発電の電力、EVから給電した電力、電力会社からの電力を同時に使用することができるので安心です。

    V2H機器の5つのメリット

    次にV2H機器を導入することによる5つのメリットをご紹介します。

    • 1つ目は、家庭用の200Vコンセントに比べて充電時間が短いこと。V2H機器を使えば、充電時間は200Vコンセントの半分。「電気自動車に乗ろうと思ったときに十分に充電できていなかったらどうしよう……」という心配を減らすことができます。
    • 2つ目は、電気料金の節約に貢献できること。日中にクルマに乗る方の場合は、電気料金が安くなる深夜料金で充電することができます。もし日中外出しない場合は、夜間にEV/PHVに蓄えた電気を家庭用電源として使用することで、ピークシフトにも貢献。大幅な電気代の節約が期待できます。
    • 3つ目は、停電時にバックアップ用電源として機能すること。夜間に停電した際は電力会社の給電や太陽光発電の電力が利用できなくても、自動車に蓄えた電力を蓄電池代わりとして家庭で使えるので安心です。
    • 4つ目は、一般的な蓄電池と比べて、電気自動車の電池容量が大きいこと。一般的な家庭用蓄電池は4~12kWhの容量であるのに対し、電気自動車は10~40kWhと大容量。より長い時間、電化製品を使用することができます。
    • 5つ目は、自治体によっては、補助金を受け取れること。EVやPHVなどのエコカーには、自治体ごとに補助金制度を設けています。中には、車両本体だけでなくV2H機器にも補助金を支給するところもあるので、お住まいの自治体にご確認ください。

    最後に小ネタ

    EV/PHVの普及とともに注目されているV2Hは、将来的に新しいEV/PHVのポテンシャルを引き出してくれるはずが、そのためには家庭にV2H装置が設置されていることと、電気自動車がV2H対応であることが必須条件です。しかし事業者・車種、共に選択肢が少なく、まだまだ汎用性があるわけではないのです。

    また、現状ではいくつかの国産システムに一部の国産車のみが対応している状況で、世界的に普及が広まっているテスラ車には未対応とのこと。

    ですが昨秋、千葉県で大きな被害を引き起こした台風15号のときに、電気自動車とV2Hで停電を乗り切った方の体験談がネットに掲載されました。そちらを拝見すると、V2Hは災害時には短期間ならとても有効で大きな力を発揮する気がします。

    千葉大停電2019を電気自動車とV2Hで乗り切った被災者の体験談

    最後に余談になりますが、「LEAF to Home」を日常的に利用しているユーザーがいるため、日産リーフの中古車の中には、走行距離がとても少ないのに電池の性能がほかよりかなり劣化しているケースもあるそうです。中古車購入をお考えの方は注意したほうがいい、というネット情報でしたが、充放電の頻度が増すと確かに電池の劣化は早まります。V2Hの本来の目的は非常用電源の確保といわれてきましたが、今後、電気自動車の蓄電池の活用は今以上に多様化していくのかもしれませんね。


    (参考・引用)電気自動車を電源に?便利でお得な「V2H」とは? など