エネマネことばの窓16 ~TCFD。投資・融資・保険の獲得には気候変動対策を開示~

エネルギーマネージメント「ことばの窓」

みかドン ミカどん昨年の10月に東京都内で「TCFDサミット」が開催されました。サミットと言えば言わずと知れた先進国首脳会議ですが、このサミットで登壇したのは政治家ではなく経済界の大物たちで、しかも主催はなんと日本の経済産業省なのです?そもそもTCFDって何なの?

2019年10月8日に東京都内のホテルで経済産業省が主催する「TCFDサミット」が開催されました。歓迎の辞を菅原一秀経済産業大臣が担当し、開会挨拶はイングランド銀行のマーク・カーニー総裁が担当。そして、オープニングセッションではロイヤル・ダッチ・シェルのチャールズ O・ホリデイ会長、日本からは経団連副会長でもある日本製鉄の進藤会長や、世界最大の年金基金であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)水野CIOなどが登壇しました。

第1回TCFDサミットを開催しました/経済産業省

日本が官民挙げて積極的に取り組もうとしているTCFDとはいったい何なのでしょうか?

TCFDは気候変動への取り組みを投資家に開示するよう促す組織

TCFDは直訳すると「気候変動関連財務情報開示タスクフォース」です。英語のTask Force on Climate-related Financial Disclosures(タスク・フォース・オン・クライメット・リレイテッド・ファイナンシャル・ディスクロージャー)の頭文字になり、将来の気候変動に対して企業がどういう取り組みをしているのかを投資家に開示しようというものです。

気候変動への対応はこれまで「企業の社会的責任」と言われてきました。ですが今では「ビジネスを進めるうえでリスク(あるいは機会)」にもなるとして、企業が投資や融資を受ける際に重要な情報となっています。

(画像:Daily Express)

昨年、アメリカではカリフォルニア州の電力会社(PG&E社)が、多くの死者を出した大規模な山火事に関する訴訟に耐えられず破産を申請しました。山火事は地球温暖化の影響によるものと言われていますが、その直接の原因として同社の送電線に起きた不具合が指摘されています。

PG&E社によると2017年と2018年に起きた山火事の責任を追求する訴訟による負債は、総額で300億ドル(およそ3兆3,000億円)を超えるおそれがあるということです。PG&E社は二度の山火事で自社の送配電網に多大なダメージを負ってしまいましたが、今後は破産法の適用下で、経営再建と山火事の被災者への賠償を同時に進めていかなくてはなりません。PG&E社は当然保険には加入していましたが、損害額や訴訟額はそれらをはるかに上回るものでした。

このニュースは米国で話題になり「地球温暖化による初の破産」としてメディアにも大きく取り上げられました。その真偽はともかく、これからは投資家も保険会社も、企業に融資をする金融機関も、財務指標のみならず相手先の気候変動への取り組みを知り、厳格に評価していかなければ金融システムの安定を損なう恐れが出てきたのです。

けれど今まではそういった発想も希薄でしたし、開示するためのフォーマットも整っていませんでした。

そこで気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するため、元ニューヨーク市長で実業家でもあるマイケル・ブルームバーグ氏を委員長として設立されたのがTCFDです。

設立自体は2016年なので山火事との関連性はありませんが、低炭素社会へのスムーズな移行と金融システムの安定を図る強い目的であることに変わりはなく、そういった開示をきちんと行っている団体を支援することが設立の趣旨でもあります。プロジェクトやイニシアチブではなく”タスクフォース”(特別機動部隊)という名称を使っていることにも、この活動への使命感や緊急性を感じさせます。

TCFDが推奨する開示すべき情報

2017年6月にTCFDは最終報告書を公表し、企業等に対し、気候変動関連リスク及び機会に関する下記の項目について開示することを推奨しました。

ガバナンス(Governance):どのような体制で検討し、それを企業経営に反映しているか。
戦略(Strategy):短期・中期・長期にわたり、企業経営にどのように影響を与えるか。またそれについてどう考えたか。
リスク管理(Risk Management):気候変動のリスクについて、どのように特定、評価し、またそれを低減しようとしているか。
指標と目標(Metrics and Targets):リスクと機会の評価について、どのような指標を用いて判断し、目標への進捗度を評価しているか。

そして何をどのようにまとめるべきか、気候関連の「リスク」と「機会」が、財務に及ぼす影響が提言によって整理され、開示が推奨される情報を以下としました。

タスクフォースによる提言と推奨される情報開示_csr-40731-3

また、気候関連のリスクや機会は中長期的に現れる場合が多いことから、戦略分野で利用される「シナリオ分析」の手法を取り入れた情報開示を推奨していることがこの提言の特徴です。つまり今後に向けた取組み目標を書き連ねるのではなく、将来的にどんなことが起こったらどうなるのかを仮定して、複数の異なる条件で戦略を分析しなさいと言っています。

TCFDは、シナリオの選択ついて下記を推奨しています。

  • 将来の結果について、望ましいものも望ましくないものも含め、妥当なバラエティーをカバーする複数のシナリオを選定すること
  • その際「国別約束(NDC)シナリオ」、「BAU(従来通り=ビジネス・アズ・ユージュアル)シナリオ※」など、組織に関連性の深いシナリオを選択すること
  • さらに地球の平均気温上昇を2℃までにとどめる「2℃シナリオ」も使用すること

※BAU(従来通り=2℃を超える)シナリオ:温暖化対策をせず、現在の延長線上にある未来像を描いたシナリオ。なりゆきシナリオの場合、4度以上の温度上昇が起こるともいわれている。

TCFDに賛同している日本の企業・団体と実際の情報開示例

上記を受けて日本でも賛同する企業・団体が増え続け、TCFDに賛同してTCFDコンソーシアムに入会した会員は2020年3月6日時点で240団体に上っています(TCFDコンソーシアム会員一覧

投資・融資・保険に気候変動への取り組み姿勢を問われ、持続可能な団体であるかどうかを評価されるのですから、グローバルな活動を行っている企業・団体ほど資金調達のためには必死にならざるを得ません。すでにサプライチェーンから早急な対応を求められている企業も少なくないそうです。

現在、賛同者数が一番多いのが日本ですが、これは金融庁や経済産業省が中心になって推進していることに加え(残念ながら延期になってしまいましたが)オリンピックの開催を前にして一気に数が増えたようです。世界から注目されるこのタイミングをアピールの機会ととらえる思いがあったように思われます。

以下に2020年6月時点での賛同者を掲載し、すでに情報開示を行っていたりシナリオを作成済みの企業・団体は名前にPDFへのリンクを貼りました。実際の開示例やシナリオ分析例をご覧いただき、これからの参考になれば幸いです。

国際石油開発帝石株式会社 サステナビリティレポート2018(P38~41)
キリングループ 環境報告書2018(P74~75)

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(一覧の出典:TCFDコンソーシアム会員一覧、PDF:TCFDを活用した経営戦略立案のススメより各社を抜粋)

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