ミカドサイエンス&テクノロジー講座(5) 体から鉄を生み出す深海の巻貝「スケーリーフット」がおもしろい

みかドン ミカどん

今年(2020年)8月22日にNHKで放送された「突撃!カネオくん」は深海のお金の秘密がテーマでしたが、その中で鉄を生み出す深海の小さな巻貝「スケーリーフット」が紹介されていました。気になって調べてみたところ興味深い事実が色々わかりました。

鉄の鱗を持つ深海の巻貝

海底火山や海嶺、海洋プレートが沈み込む深い海の底には熱水が噴き出している場所が数か所あります。水深2500メートルのインド洋の深海にも300度の水が噴き出す熱水噴出孔がいくつかありますが、熱水には猛毒の硫化水素が含まれるため、普通に考えればとても生物が生きていける環境ではありません。

ところが近年の調査により、この高圧・高熱・強酸性の熱水噴出孔にだけ生息する驚きの生き物がいることがわかりました。そのうちのひとつが今回紹介するスケーリーフットという体長4~5センチの巻貝です。

スケーリーフットは2001年、かいれいフィールドと呼ばれるインド洋の熱水域でアメリカの探索チームによって発見されました。「かいれいフィールド」という名前の通り、世界に先駆けて2000年にこの熱水域を発見したのは日本なのですが(深海調査研究船「かいれい」にちなむ)、そこでスケーリーフットを発見して論文発表したのが、翌年その海域を調査したアメリカだったのです。

2001年に新種の貝として発見されたスケーリーフットは、世界で唯一、鉄(硫化鉄)の鱗(うろこ)を体から生やしている不思議な貝でした。そのため「鉄を作る貝」として世界中から注目されました。

しかもスケーリーフットの鱗の硫化鉄には、半導体の材料として太陽電池への応用が期待される黄鉄鉱(パイライト)や、磁性を持つ磁硫鉄鉱(グレイジャイト)など数種類のナノ結晶鉱物から成り立っているため、その生成過程の研究は現代のエネルギー技術にも役立つと言われています。

高圧・高熱・強酸性の熱水噴出孔で生きていられる理由

深海の熱水噴出孔から噴き出している水は300度にもなります。100気圧にもなる深海の圧力のため、水は100度を超えても沸騰しないのです。

といっても300度の熱湯の中で生きているわけではありません。深海の水はとても冷たいのでほんの少し離れると温度が下がります。スケーリーフットはその絶妙な間隔の場所にコロニーをつくってびっしりと密集しています。

そして驚くべきことに、スケーリーフットの栄養源はなんと硫化水素です。深海では太陽の光が全く届かずめぼしいエサもありません。

そこでスケーリーフットなどの熱水噴出孔に生きる生物は、体内に微生物を棲まわせています。スケーリーフットも体内に共生細菌がいます。この共生細菌がスケーリーフットが取り込んだ硫化水素を酸化して二酸化炭素から有機物を作り出し、スケーリーフットはそれを栄養源として生きています。

その微生物が化学合成するときに代謝物(いわゆるウンチ)として硫黄を出します。スケーリーフットはその硫黄を鱗(うろこ)のとても細い管からゆっくりと体外に排出していますが、それが海水の鉄と反応して硫化鉄がつくられ、「鉄の鱗」となって成長していくわけです。

このようにスケーリーフットは過酷な環境に適応し過ぎてしまったために、もはや他の場所では生きていけず、少しでも酸素が多い場所に移動させると錆びてしまいます。日本の研究チームが過去にスケーリーフットを捕獲し、万全の体制で日本に持ち帰ったことがありますが、残念ながら3週間で全滅してしまいました。その原因も酸素が多かったせいではないかと言われています。

深海生物では初の絶滅危惧種に指定

image003そんなスケーリーフットが昨年(2019年)、深海生物では初の絶滅危惧種に指定されました。

現在、スケーリーフットの生息が確認されているのは、インド洋の水深2400~2900メートルにある3カ所の熱水噴出域のみです。それぞれの生息域は小さく、互いに離れているために個体が行き来することもほとんどありません。

しかし熱水噴出域は吹き出る熱水の中に地下から噴出する有益な資源が含まれるため、付近一帯が鉱床になっており、現在はドイツと中国が期間限定の探査権を持っています。

公海域の深海底鉱物資源を管理しているISA(国際海底機構)は、各国からの鉱区の申請を受けて審査し、一定期間の排他的な探査活動の権利を付与していますが、熱水性の金属硫化物鉱床もこの対象になっており、すでに認可済みです。

そうなると世界を探してもここにしか生息していないスケーリーフットの生息環境に影響が出ることが懸念されてきたため、深海生物多様性保全への第一歩として国際自然保護連合がスケーリーフットをレッドリストに登録しました。

将来的な活用が期待されている黄鉄鉱のナノ結晶を作るにはとても高い温度と莫大なコストがかかるのに、スケーリーフットは10℃という低温でそれをあっさり?つくってしまう生き物です。

そのため生成システムの解明が待たれますが、捕獲も大変、持ち帰るのも大変な生き物なので、成果が上がるにはまだまだ時間を要するのかもしれません。

ちなみにスケーリーフットというのは「鎧の足を持つ」という俗名で、正式な学名はChrysomallon squamiferumと言い、和名はウロコフネタマガイです。

希少生物のためデータが少なく、発見から新種登録までに15年もかかった事実も驚きですが、もっと興味深いのは、真の第一発見者は実は日本だったのではないか?という微妙すぎる経緯です。興味がある方は以下をぜひ読んでみてくださいね。(黒歴史かもしれませんが、けっこう笑えます)

(参考)プレスリリース「スケーリーフットの全ゲノム解読に成功―生物の硬組織形成の起源と進化に新たな知見―」では語りきれなかったスケーリーフット研究小史(裏ストーリー)

(ミカドONLINE編集部)


出典/参考記事:【コラム】スケーリーフット研究小史 奇妙な深海生物スケーリーフットが絶滅危惧種に  など

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