ミカドサイエンス&テクノロジー講座(12)~ざっくりと知る燃料電池のしくみと歴史~

みかドン ミカどん

燃料電池という言葉を初めて聞いたとき、私はさっぱりわけがわかりませんでした。「燃料」と「電池」が頭の中でどうしてもつながらなかったからです。それは燃料という言葉の意味に惑わされていたからでした。私と同類の方はぜひ今回の記事でざっくりとしたしくみと歴史を知ってくださいね。

燃料電池の「燃料」というのは水素のことです

電池には一次電池と二次電池があります。一次電池は使い切りタイプの電池です(要するに乾電池)。二次電池は車のバッテリーや携帯電話の電池のように充電すれば満タンになって何度も使える電池です。

しかしどちらも電気を起こす化学物質は、容器の中にがっちり収められていて外から補充することができません。そのため繰り返し使える二次電池であっても、年々内部が劣化して性能が衰えていくためやがて寿命が訪れます。

一方燃料電池は化学反応を起こすための物質をパッケージ化せず、外部から供給して継続的に電気を起こすしくみです。イメージとしてはリアルタイムに電気を起こす発電装置に近く、一次電池や二次電池のように電気を貯めることはできません。

けれど発電機のように動力の回転を必要としないためエネルギーの損失が少なく音も静か。しかもCO2を排出せず出すのは熱い水だけで、それも熱源として再利用できる(エネファームなど)のですから、まさにクリーンでエコなエネルギーです。

燃料電池と聞くとたくさん種類があるように思えますが、現在実用化されている商用の燃料電池はすべて、天然ガスやメタノールから取り出した水素と空気中の酸素を化学的に反応させて電気を起こすものです。(電解質の違いによる分類はいくつかあります)

本来、燃料というのは「燃やしてエネルギーを起こすための材料」のことですから、通常は、まき、炭、石炭、ガス、石油などが思い浮かびますよね。ですが燃料電池の”燃料”は「酸素と反応することで化学エネルギーを取り出せる物質」を指し、そういった物質は現状では水素しかありません

燃料電池のしくみは「電気分解の逆」とよく言われます。水を電気で水素と酸素に分解できるなら、逆に水素と酸素を合体して水を作ればそのときに電気が発生するのではないかという発想です。実際には高い温度や触媒を必要とするなど、一筋縄ではいかないことなのですが、技術の進歩により今はそれが可能になっています。燃料電池のしくみ関しては以下の記事もご覧ください。

(参照)燃料電池のしくみとミライの未来

燃料電池の歴史はガソリンエンジンより古い

(画像:Spa Do セミナー

燃料電池の原理を考え付いたのはイギリスのハンフリー・デービー(1778年 – 1829年。ファラデーの師匠)ですが、実際にそれを試作して実験に成功したのはイギリス(ウェールズ)のウィリアム・ロバート・グローブ(1811年 – 1896)です。

ウィリアム・ロバート・グローブ(画像:meisterdrucke

グローブは弁護士から転向した科学者で、1840年代から1860年代に米国の電信システムで普及したグローブ電池を発明したことで有名ですが、それとほぼ同じ時期の1839年に燃料電池の原型をつくり、水素と酸素で電気ができることを確かめました。

この装置は電極に白金(プラチナ)、電解質に希硫酸をつかい、水素陽極と酸素陰極を接続することで電気を発生させるものでした。この燃料電池は1組では電圧が低いため連結して動作をさせますが、水が発生して電解液が薄くなることや白金が高価なことで実用化には至りませんでした。

その後、内燃機関の発明や大規模な油田の開発などで、ガソリンで走るエンジン車が自動車の主役となり、燃料電池は次第に忘れられていきました。内燃機関の発明(1878年)よりもずっと前に実証されていながら、燃料電池は長い間手つかずの技術だったのです。

※余談ですが、グローブが開発したグローブ電池は日本で初めてアーク灯がともされたときにも使用されていたんですよ。

(参照)国産初の大容量発電機を設計した中野初子(はつね)は佐賀県出身~

宇宙開発で研究が進んだ燃料電池

燃料電池は100年ほど埋もれたままになっていましたが、グローブの研究を知って高い関心を持ったフランシス・ベーコン(1904年 – 1992年/英国)が燃料電池の特許を取得し、1952年に発電用の燃料電池の開発に成功しました。

それに着目したのがNASAです。ロケットの燃料が水素と酸素なので同じ燃料で発電できれば大変都合がいいうえに、発電時には水しか発生せずとてもクリーンです。そして発生した水は飲料水として利用できます。

長い間大きな進歩がなかった燃料電池ですが、それ以後の米国では宇宙開発を目的とした研究となりました。そして地上との通信やコンピュータ用の電源として1965年に打ち上げられたジェミニ3号から燃料電池が積み込まれました。

燃料電池は1968年にアポロ計画にも採用され、1969年には燃料電池が積み込まれたアポロ​宇宙船がへ行きました。

燃料電池は電極や触媒に白金をつかったり(タイプによる)、水素の製造に大きな経費とエネルギーを要するなど、現在も高額であることが課題のひとつですが、宇宙開発は米国の威信をかけた国家事業であり、ある意味「お金に糸目をつけない」開発で技術が進歩したといえるでしょう。

オイルショックで民生利用に加速、現在はクリーンに期待

燃料電池の用途分野別世界市場の予測(画像:富士経済グループ

燃料電池が次に注目を浴びたのは、1970年代のオイルショックの時です。中東の産油国が原油価格を70%引き上げ、イスラエルを支持するアメリカなどに原油の輸出を禁じたこのできごとは、世界中を大混乱に陥れただけでなく、石油に依存しすぎていたエネルギーを各国が見直すきっかけになりました。

米国ではアポロ計画が終了し多くの技術者が民間企業に派遣されたことも研究開発を加速させました。

また日本でも石油代替・省エネルギー技術の開発を目指して1981年に始まった通産省の「ムーンライト計画」(93年以降は「ニューサンシャイン計画」)に燃料電池の開発が組み込まれ、燃料電池の研究開発が活発になりました。

現在、燃料電池はCO2を排出しないことが地球温暖化防止に役立つとされて、各国が課題の解決に日々研究を重ねています。

燃料電池はコージェネレーションや自動車の分野で実用化されていますが、特に自動車分野では価格の面や水素生成のコスト、水素インフラの整備など解決すべき問題が山積みです。

その一方で、自動車以外の分野では、マイクロソフト(米国)がデータセンターのバックアップ電源に水素燃料電池を試用したり、日本ではドローンに使用する実証が行われるなど、活用の可能性と範囲が広がってきているようです。

課題を抱えながらも上の図のように、年々市場規模が拡大すると予想されている燃料電池に今後も注目していきたいです。

(リンク)Microsoft、データセンターのバックアップ電源に水素燃料電池を試用
(リンク)世界初の固体酸化物形燃料電池ドローンを開発し、長時間飛行を実証

(ミカドONLINE編集部)


出典/参考記事: 燃料電池講座 The History of Fuel Cells 燃料電池の発電のしくみと実際 (PDF) 先端科学をのぞいてみよう 燃料電池 燃料電池の歴史 燃料電池の歴史と原理(PDF) など

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