ミカドサイエンス&テクノロジー講座(13)~第一印象が悪すぎてお役御免になった犬型ロボットの話~

みかドン ミカどん

犬型ロボットと聞くと私たちはアイボのような可愛らしい姿を想像しますが、米国のボストン・ダイナミクス社が開発した”スポット”はそんな生やさしいものではなかったために、市民の不安な感情を煽ってしまいました。今回は超ハイテクな犬型ロボットの話題です。

四足歩行の犬型ロボットが昨年より販売開始

▼犬型ロボットの販売開始を伝えるテレビ東京のニュース

米国のボストン・ダイナミクス社が開発した”スポット”は非常に優れた四足歩行の犬型ロボットです。元々は足場の悪い湿地や草木の繁る山の急斜面など、車輪走行が困難な場所で荷物の運搬や偵察ができるように、軍事目的で開発されました。

しかし、ユーモラスを通り過ぎたある意味不気味な?外観が衝撃的だったため、このサイトでも2019年に記事として取り上げさせていただきました。

➡ (過去記事)動きに驚愕!キモいロボット量産間近!

その後、犬型ロボットの”スポット”は昨年(2020年)正式に販売を開始し(一部の層に向けては2019年に開始)、工事現場や鉱山、地形的な難所など、危険性が高い環境や人間が入りにくい世界中の様々な場所で、75台以上が活躍をしています。

この”スポット”を偵察犬として採用したのがニューヨーク市警(以下NY市警)です。NY市警はボストン・ダイナミクス社と94,000ドル(約1,030万円)でレンタルする契約を2020年12月に結び、独自にカスタマイズしたものを”デジドッグ”と名付けて、危険な状況下での偵察に配備し、実際に立てこもり事件に使われました。

しかし昨年の12月に結ばれたこの契約は当初の予定より4カ月も早い今年の4月に終了してしまいました。それは犬型ロボットが動いている現場の映像を見た人々からいっせいに強いブーイングが沸き起こり世論を動かしてしまったからです。

NY市警に導入されるも市民の批判を浴びて

▼SNSに投稿された警察ロボット犬の動画や画像を取り上げる米国のテレビ放送

ニューヨーク市民が不安を覚えたのは、いくつかの事件現場で実際に使われている警察ロボット犬の外観でした。

元々、少々キモいビジュアルですが、それが本物の犬のように自由自在に動きまわり、しかも頭部には録画機能を持つカメラを備えています。これを見た人々は、一般市民が今後当局から不当に監視されてプライバシーが脅かされるのでは?という疑念を持ちました。

(画像:Global Nerdy

また、このロボット犬の見かけは、凶暴な犬型ロボットが人を襲う英国の近未来ドラマ『ブラック・ミラー』に登場するロボットにとても似ており、多くの人々がそれについてネットに投稿してSNSでも拡散されました。

実際にはドラマの作者のほうがボストン・ダイナミクス社のロボット犬を真似たのが真相ですが、もし(ドラマのように)この犬型ロボットが銃や刃物などの武器を備えていたら?と思うと確かに恐怖ですし、イメージの悪化にも納得がいきます。

折しも米国では前年に、警察が路上で拘束した黒人男性が死亡してしまう事件があり、警察に対する批判的な見方が収まらない中での試験導入だったため、「自律的に監視を行う地上ドローン」(下院議員)「放置すればやがてロボットが警察権の執行判断を下すことになりかねない」(人権団体)などの批判が噴出して税金の妥当な使い方でないとされ、ついにNY市警はこのロボットのリース契約を短期で終了しました。

背景にはNY市警がこのロボット犬の導入について事前に十分に情報を開示せず、市民が議論をする機会もなかったことが、さらに印象を悪くしてしまったという見方もあります。

それらはルールの上では問題のないプロセスだったようですが、何の事前情報もなく突然メディアで警察ロボット犬が公開されてしまったため、不安と怒りの市民感情が大いに増幅されてしまったようです。

ですがこのロボットはバッテリーの関係で90分しか連続稼働できないんです。もしかしたらそういった点もうまく伝わらず、ネガティブな情報だけが独り歩きしてしまったのかもしれませんが、そちらのほうが逆に「税金の無駄遣い」といわれたかもしれませんね。中には高級なおもちゃと揶揄する人もいたようです。

BTSとコラボしても”スポット”の用途はまだ未知数

▼竹中工務店の建設現場を巡回する犬型ロボット

米国で物議をかもした犬型ロボットですが、日本では2020年の12月に鹿島、竹中工務店、竹中土木がボストン・ダイナミクス社の”スポット”を建設分野で実用化するための共同研究を開始しました。

(画像:ロボスタ

でこぼこ道でも普通に歩け、狭くて急な階段も登ることができて、障害物を避け転んでも自分で起きられる犬型ロボットは危険な建設現場の巡回や監視に向いていると思われます。また最近ではコロナ禍における医療施設の補助作業などでも使えるのではないか?と期待が寄せられています。

ボストン・ダイナミクス社の犬型ロボットは高度な技術でつくられた魅力的なマシンですが、実はまだ今のところベストな用途が定まっていません。商用化の方向性が見えないため開発費に対して利益は実質ゼロだそうです。

会社自体も一度はGoogleが買収したものの、その後ソフトバンクの手に渡り、そのソフトバンクは今年の6月に韓国のヒュンダイ自動車グループに株式の80%を売却しました。

ヒュンダイ自動車は前の二社と異なりものづくりを主とする製造業であることから技術的な相性も良く、同社が手掛ける製造ロボット分野や自動車の自動運転などにもボストン社のテクノロジーが生かされるのではないかと言われています。

ヒュンダイ自動車は6月29日にいまや世界的なアイドルスターとなったBTSと”スポット”が絡むコラボ動画を発表しました。何かと話題の犬型ロボットですが、圧倒的に社会貢献ができる王道の使い道が早く見つかるといいですね。

▼BTSとコラボしたヒュンダイ自動車のPR動画

(ミカドONLINE編集部)


出典/参考記事: Boston Dynamics、犬型ロボット「Spot」を販売開始。価格は約800万円 ボストン・ダイナミクスの「ロボット警察犬」が、ニューヨーク市警から“追放”された理由 米NY市警、ロボット犬の運用中止 反発の声強く 四足歩行ロボ「Spot」を建設現場に! 鹿島、竹中らが共同研究に合意 あのロボット犬が医療崩壊を防ぐ? 新型コロナウイルスと闘う病院で、医療従事者の“分身”として活躍し始めた ヒュンダイ自動車がソフトバンクグループからBoston Dynamicsの取得を完了 AtlasとSpot出演のコンセプト新動画を公開 現代自動車が米ロボット企業を買収したワケ など

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