エネマネ最新事情(23) ~「逃げ恥」ならぬ「飛び恥」で加速する飛行機の電動化は世界初を小型機が競う~

みかドン ミカどん皆さんは「飛び恥」って知ってますか?ヨーロッパで急速に広まっている価値観で「二酸化炭素を膨大にまき散らす飛行機に乗るのは”恥だ”」という感覚です。ヨーロッパでは「飛び恥」の浸透で鉄道利用が増えていますが、飛行機業界も電動化に力を注ぎ始めています。

「飛び恥」を背景に加速する電動飛行機の開発

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スウェーデンの高校生で、いまや世界的に有名な環境活動家となったグレタ・トゥーンベリさん(17際)は、ニューヨークで開かれた国連の温暖化対策サミットに参加する際にヨットで大西洋を渡りました。

グレタさん_K10012146491_1910241628_1910241640_01_04二酸化炭素を大量にまき散らす旅客機は、地球温暖化防止が叫ばれる現代においては空飛ぶ恥(flying shame)であり、乗るべきではないという彼女の考えは若者を中心に共感が広がり、ヨーロッパでは「飛行機に乗るのは恥ずかしいこと」という考えが広まっています。

環境意識の強いヨーロッパでは各国が将来的なガソリン車販売禁止の方針を打ち立て、著名な自動車メーカーもすでに軸足をEVにシフトさせています。

ヨーロッパでは遠距離移動に関しても飛行機ではなく鉄道を使おうという機運が高まってきており、なんとあのKLMオランダ航空自らが、6月に公表した企業CMで電車移動を呼びかけて話題となりました。

(参考)逃げ恥、飛び恥、赤っ恥~飛行機に乗るのは恥ずかしい?/NHK

これは世論に忖度したのでしょうか?ちなみにある資料によれば鉄道を使った場合のCO2排出量は航空機の 15~20 分の 1 以下だそうです。

移動手段としては電動化が遅れている飛行機ですが、その原因はバッテリーの持続時間と重さにあります。しかし小型飛行機の分野では、昨年から今年にかけていくつか全電動飛行機のテスト飛行が成功しています。

それらのニュースによく使われている「世界初」という言葉。ちょっと読んだだけではどれがどの部分で「世界初」なのかわからず戸惑いますが、そういった報道の差別化も開発競争の激化を表しているのかもしれません。

世界初の電動飛行機は1973年にオーストリアとドイツのコラボ

電動飛行の歴史は意外に古くライト兄弟以前の1883に電動プロペラ式飛行船、そして1917年にはオーストリア=ハンガリー帝国が地上からの電線によるモーターで軍事用偵察空中装置を浮上させることに成功していますが、世界で初めて電気の力だけで有人空中飛行が成功したのは1973年のことでした。

これはドイツのリモコン模型メーカーであるグラウプナー(Graupner-Engineeering)の主任技術者であったフレッドミリッキー(FredMilitky)が、18年以上電動飛行機モデルの開発に携わり「有人航空機でもいけるのでは?」と確信を抱いたことに端を発します。

それに対して、ジュエリー製造会社でありながら家族経営向けの軽航空機部品もつくっていたオーストリアのBrditschka親子が名乗りを上げ、推進システムを担当していたHeinz W. Brditschkaと設計を担当していたHeino Brditschka(開発時16歳!テスト飛行成功当時23歳)が機体を提供して実現しました。

1973年、フォークリフトに搭載されていたニッケル・カドミウム蓄電池をグライダーに乗せ、ボッシュ製DCモーターでプロペラを回転させて300メートルの高さまで上昇したこ飛行機は、14分間も継続飛行を続け、この記録はギネスブックにも掲載されました。(一説では9分ですがギネス認定は14分)

石油を使わないこの電動プロペラ機は、その後のオイルショックで注目を浴びて事業化され、オーストリアで小型航空機を製造をするHB-Flugtechnik社になりました。この出来事は世界初の電動飛行機として世界に広く認知され、同社の業績は今も好調に推移しているようです。

しかし、そもそもグライダーというのは基本的に動力を持たない滑空型の愛好者向け飛行機です。離陸時や高度低下時の再上昇動力についても法規上の定めがなく、この分野で電動モーターが使われることはそれほど珍しくはありません。つまりグライダーであれば電動飛行機は”昔からある”ということになります。

けれどいま、世界が電動化を目指しているのは実際にお客さんを運べる飛行機ですよね。

「世界初」をキーワードにしのぎを削る各社の全電動飛行機

2019.12.10 世界初商用電動航空機の試験飛行が成功

2019.12.10 世界初商用電動航空機の試験飛行が成功

昨年の12月、カナダの水上飛行機会社「ハーバーエア社」が”世界初”の商業電動飛行機のフライトに成功しました。

一般的に商業飛行機というのは、軍用機以外の飛行機を指しますが、ハーバーエア社は北米最大の水上飛行機会社で、湖や川が多く陸路で到達が困難な地域への定期便や遊覧飛行などを行っているため、”お客様を乗せる民間航空機”という意味合いでの「世界初」なのだと思われます。

全電動飛行機というのは燃料を積まずエンジン(内燃機関)もない飛行機のことです。バッテリーから供給される電気だけを動力につかい、モーターでプロペラを回します。

テストに使われた機体は1957年にカナダで製造されたデハビランドカナダDHC-2ビーバーという機種で製造後60数年経っていますが、この機体に米国で航空機用電動モーターを手掛けるスタートアップ「マグニクス(MagniX)」が開発した750馬力の電動推進システム(magni500)を搭載し、昨年、約15分にわたる試験飛行を成功させました。

機体は6人乗りですが、キャビンの座席一杯にリチウムイオン電池を積んでいるためこの飛行機(テスト機)に乗客は乗れないそうです。また、継続飛行距離もこのモデルでは160Kmとのことで、160Kmと言えば仙台⇔盛岡(約180Km)にも満たない距離ですが、短距離運行しかない同社の路線には十分らしく、ハーバーエア社ではバッテリーの課題を解決しながら、今後は40機以上所有する全ての機材を順次電動化していくそうです。

2020.5.28 世界最大の完全電動飛行機「eCaravan」、アメリカで初飛行に成功

2020.5.28 世界最大の完全電動飛行機「eCaravan」、アメリカで初飛行に成功

今年の5月、飛行試験の分野で豊富な実績を持つアメリカのAeroTECと、電動エンジンの製造を手がけるマグニクス(前述)が、世界最大の完全電動飛行機「eCaravan」が初飛行に成功しました。

同社の公式YouTube動画にはさすがに「世界初」の文字はありませんが、現時点で9人乗りが世界最大のため、各ニュースサイトでは「世界最大」の文字が使われ、9人乗りでは「世界初」らしいです。

それにしても9人乗りが現在の完全電動飛行機では世界最大という事実に少し驚きますが、バッテリーの重さというのはそのぐらい大きく”重い”課題なのだと思われます。

試験飛行機の機体はセスナ208Bグランドキャラバンにマグニクスが設計した750馬力の電気モーター「magni500」を搭載したもので、モーターとしては前述のハーバーエア社と同じものです。

初飛行は、アメリカ・ワシントン州グラント郡モーゼスレイクにあるグラントカウンティ国際空港で実施され、「N32EL」は30分間に渡り飛行しました。

2019.10月 世界初の垂直離着陸ジェットエンジン飛行機

2019.10月 世界初の垂直離着陸ジェットエンジン飛行機

こちらはドローンのように垂直に離着陸できるVTOL機(Vertical Take-Off and Landing aircraft)と呼ばれる飛行機です。それを電動化しジェットエンジンで動くように開発したeVTOL機がドイツのスタートアップ企業 Lilium GmbH(リリウム社)から発表されています。この場合はVTOL機の電動化が「世界初」ということのようです。

同社では独自の都市型飛行機を開発しており、今年(2020年)の6月に投資運用会社のベイリーギフォード社から3500万ドルの資金調達を得て、現在の総資金調達額は3億7500万ドルに拡大しました。それだけ今後の利益につながる有望な技術と目されていることがうかがえます。

リリウム社のeVTOL機は2種類あり、リリウムジェットは5人乗りの航空機として設計され36個のモーターを持ち、1 MW(1,300 hp)のリチウムイオン電池で駆動します。もう一方のイーグルは二人乗りです。

リリウム社はこの機体をエアタクシーサービスとして利用することを検討しており、新たな産業として確立させることを視野に入れています。近隣の目的地まで空を飛んで移動するタクシーなんて、まさに近未来のイメージですね。

大型旅客機の電動化はまだ先の見込み

ここまで電動航空機の「世界初」をいくつかご紹介しきてきましたが、CO2削減に効果のある飛行機の電動化といえばやはり誰もが大型旅客機を思い浮かべる事でしょう。

しかし大型航空機の場合は、小型航空機と同様に考えることはできないようです。大型航空機の電化にとって大きな障壁となっているのは推進システムではなく、エネルギー密度の問題です。

航空機に使用されるジェット燃料のエネルギー密度は最新のリチウムイオンバッテリーのなんと30倍にも達するとのこと。そのため、ジェット燃料をそのまま同じ体積のリチウムイオンバッテリーに置き換えても、飛行に必要なだけのエネルギーが供給できないという問題が発生します。

たとえば世界最大の旅客機であるエアバスA380は、1回の飛行で600人の乗客および貨物を乗せて1万5000kmもの距離を飛行することができまが、エアバスA380の燃料をそのままバッテリーに置き換えると、わずか1000km強しか飛ぶことができない計算になるそうです。

電動化が進む航空業界ですが、大型旅客機に関しては常識を覆す革新的な技術や発想が出現しないと実現はなかなか難しいのかもしれません。

世界初!水素燃料電池の飛行機がイギリスでテスト飛行

さてこの原稿を書いている最中に、新しいニュースが飛び込んできました。今度は「世界初」の水素飛行機だそうです。こういった「世界初」のニュースに日本が登場してこないことを少し寂しく思いますが、世界のどこかで静かに進行している技術開発が花開く日を待ちたいですね。

(ミカドONLINE編集部)


出典/参考記事: 逃げ恥、飛び恥、赤っ恥~飛行機に乗るのは恥ずかしい? 電動飛行機が、世界の空を変える Brditschka HB-3 「電気飛行機」は将来的に実用化されるのか? エアタクシーサービスを目指すLiliumが都市向け電動垂直離着陸機による試験飛行 Lilium、Billie Giffordから投資を受け、総資金調達額を3億7500万ドルに拡大 テスト飛行に成功した「電動飛行機」スタートアップは何を目指すのか? 『WIRED』独版独占インタヴュー Lilium’s full-sized electric jet flies for the first time First All-Electric Plane Flies for Just About 15 Minutes 世界最大の完全電動飛行機「eCaravan」、アメリカで初飛行に成功 世界初商用電動航空機の試験飛行が成功 ボーイング、ウーバー、テスラも開発を急ぐ カナダ航空会社Harbour Airが世界初の商業電動飛行機のフライトに成功! など

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