エネマネ最新事情(25) ~様々な電源を束ねて管理、VPPは電力安定化を安価に行うIoT時代の新ビジネス~

    みかドン ミカどん東芝エネルギーシステムズが12月4日に新サービスを開始しました。「Toshiba VPP as a Service」と呼ばれるこのサービスは、同社が発電事業者や電気の小売業者に向けて太陽光発電の発電量予測や電力需要の予測をタイムリーに提供するもので、日本でも商用化が近づくVPP事業を念頭に置いたものです。でも、そもそもVPPっていったいなに?

    VPPは多様な電源を束ねて管理する分散型の電力システム

    VPPはバーチャル・パワープラント(Virtual Power Plant)の略称です。そのまま訳せば「仮想発電所」になり、その名の通り主たる発電所を持たずに電気を供給するしくみや事業のことを指します。

    具体的には、①既存の発電所②太陽光・風力などの再生エネルギー、そして③事業所や家庭の発電機や蓄電池やEVやコジェネなど、様々な電源リソースをネットワークで結び、需要と供給に過不足が出ないように全体を調整しながら、電気を相互に融通し合うシステムです。

    海外ではクラウド分散型発電所とも言われているVPPは、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーが普及し始めた2010年前後に米国や欧州で始まりました。

    目的は電力の需給バランスの平準化です。気象条件によって発電量に大きな差が出る再生可能エネルギーを既存の電力システムの中に直接組み入れてしまうと、発電量の総体的なコントロールが難しくなります。

    そこでドイツでは2009年に小規模なコージェネレーションシステムや太陽光・風力発電所を集約して全体を一括で自動管理するシステムが生まれました。そして単独では市場に参入できない小さな電力をまとめあげて調整し、電力が不足している事業者に電気を売るようになったのがVPPの始まりです。

    この方式は、ひとつの大きな発電所を持っているのに等しい役割を持つことから仮想発電所(バーチャル・パワープラント)と呼ばれるようになりました。これは分散するリソースを束ねて管理するのでエネルギー・リソース・アグリケーション・ビジネスとも言われます。(アグリケーション=集約、集合体の意)

    一方、米国では電力の需要がピークに達してひっ迫したときに、電気を使う側に働きかけて電力利用を減らしてもらう手法を取るようになりました。これは「デマンド・レスポンス(DR。需要応答)」と呼ばれます。

    VPPは早ければ来年に、日本でも事業化される見通しですが、その場合は様々な電力リソースをまとめて(アグリケーション)売電するだけでなく、IoTを駆使して発電量を調整したり契約者の電力使用量を落としたり(デマンド・レスポンス)します。

    VPPは電力の安定化を解決する安価でクリーンな方法

    以前にも何度か触れましたが、私達がコンセントから得ている電気は、高度に調整されて供給されています。

    電池という作り置き可能な工業製品をつかえば何の問題もなく明かりが点く懐中電灯とは異なり、電力会社が供給する電気はそのときどきの地域の総使用量に合わせて、発電所が(ほぼ)リアルタイムで発電しているものです。つまり電力会社が私達の電力消費を追いかけて発電しているイメージです。

    電気の供給には同時同量という大原則があり、使用量に対して供給量が多すぎたり少なすぎたりすると電気機器の動作に不具合が出て事故につながったり、最悪の場合は地域に大停電を引き起こします。そのため電力会社では正確な予測を基に、電力需要のピーク時には水力発電を稼働させたり火力発電の焚き増しで発電量を増やすなどしています。

    しかしこの方法は設備の維持管理や燃料代に大きな経費が掛かるばかりでなく、CO2の排出量も増やしてしまいます。

    また近年著しく数が増えた太陽光エネルギーの場合は、天候次第で突発的に需要を上回る発電量になってしまい余剰電力を抑制する必要が生じます。これはせっかくのリソースを無駄にしていると同時に、予測のつかない状況が増えて電力の安定化が段々困難になっていることを意味します。

    VPPはそういった喫緊の課題を解決する手段として導入が急がれてきました。日本のVPPは現時点ではまだ商用化されていませんが、来年(2021年)電力の「調整力」を取引し合う市場(需給調整市場)が開設されることで、VPPを事業として成立させることが可能になり、関西電力や三菱商事やDeNAなどがすでに参入を表明しています。

    関西電力が掲げている以下の3つのメリットが、VPPの特長をよく表しているといえるでしょう。

    系統安定化コストの低減

    VPP・DRは本来別の目的を持った顧客のエネルギーリソース(蓄電池の例:ピークカット、FIT切れ再エネの自家消費、BCP対策等)の余力を活用するため、系統安定化のために従来活用されてきた火力発電や揚水発電などの電源と比べ、設備投資等を抑制できる。そのため中長期的には系統安定化コストの低減に貢献すると期待されている。

    再生可能エネルギーの導入促進

    太陽光や風力などの再エネは天候などの影響で短い時間のなかで発電出力が急激に変動する。再エネ導入拡大には、これに見合う需給バランスを保つための調整力を確保する必要がある。VPP・DRが調整力として機能し、供出量を増やしていく重要性は高まってくる。

    顧客が保有するエネルギーリソースの価値最大化

    アグリゲーターとしてDRの買い手や取引メニューを増やすことで、顧客のエネルギーリソースを活用できる機会を増やし、利益の最大化や系統安定化へのさらなる貢献といった価値を提供できる。

    (出典:関西電力、2021年4月開設の需給調整市場に参入 VPP技術を活用

    自動的に抑制されてもお金が入る?

    具体的なVPP事業の流れは以下の通りです。

    ①VPP事業者は予め顧客と契約を結び、需要家が保有するリソース(蓄電池、需要機器など)の制御権を持ちます。
    ②次にVPP事業者は電力会社との間で、電力やネガワット、調整力の提供を行う契約を結びます。
    ③サービス開始後は、計画時の取引に従って電力や調整力の供出を行います。その際にVPP事業者は需要家のリソース制御も行います。
    ④VPP事業者が電力会社と清算、各リソースを保有する顧客とも清算します。

    ここで気になるのが抑制についてです。VPPでは事業者が電力のピークを抑えるために顧客の持つリソース(例えば空調や照明など)の出力をオンラインで自動的に落とすことができますが、そうなった場合の快適性や作業効率などを十分吟味して契約内容を決める必要がありそうです。

    けれどその一方で、VPPでは省エネに対しても報酬が得られます。つまり実際に抑制された電力量に従ってインセンティブを受け取ることができるのです。その抑制された電力をネガワットと呼び2017年より法律で取引が認められました。ただしスムーズな実現のためには顧客側に精度の高い抑制システムが導入されている必要があるかもしれません。

    ふたを開けてみるまではまだ不透明感のある日本のVPPですが、資料を読む限りでは下げる方向のデマンドレスポンスが中心になっている印象です。先行する欧州ではVPPを調整弁ではなくメーンの電源として位置付けていく動きもあり、今後VPPがどんな方向に進んでいくのか興味深いところです。

    (ミカドONLINE編集部)


    出典/参考記事:VPPビジネスの過去、現在、そして未来 エネルギー・リソース・アグリケーション・ビジネスハンドブック 諸外国におけるバーチャルパワープラントの実態調査 三菱商事、仮想発電所本格参入 NTTとの連携テコ DeNAが仮想発電所 など

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