エネマネ最新事情(27) ~スイス発!電動化じゃない方法でトラックのCO2を9割削減するアイデア~

    みかドン ミカどん菅総理が先月「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」と発表するなど、いまや車の電動化は止められない流れですが、その一方でなかなか電動化が進まない車種もあります。それはバスやトラックなどの大型商用車です。今回はバスやトラックのゼロ・エミッションに向けた課題や、一昨年スイスで発表された新しいアイデアなどをご紹介します。

    なかなか進まないトラック・バスの電動化

    (画像:国土交通省 行政事業レビュー公開プロセス説明資料

    バスやトラックなど大型商用車におけるCO2削減対策があまり進んでいません。平成27年の統計では、この分野でのエコカーの普及状況は以下のようになっています。

    大型商用車の次世代自動車普及状況
    ・バス全体に占めるハイブリッドバスの割合・・・0.94%
    ・バス全体に占めるCNGバスの割合・・・0.51%
    ・トラック全体に占めるハイブリッドトラックの割合・・・1.14%
    ・トラック全体に占めるCNGトラックの割合・・・0.84%
    ※CNG= 圧縮天然ガス

    (出典:国土交通省 行政事業レビュー公開プロセス説明資料

    この前年に行われた全国消費実態調査では、「二人以上の世帯の自動車全体に占めるハイブリッド車・電気自動車の所有割合」は7.7%となっていますので(出典:総務省統計局データサイエンススクール)、同年のデータではないものの、状況としては商用大型車と個人ユースの普通自動車では大きな開きがあることがわかります。

    (画像:国土交通省 行政事業レビュー公開プロセス説明資料

    一番の原因は価格が高いことにあると思われます。右の図で示されているように平成27年の時点では、電気バスが標準ディーゼル車の3.3倍、電気トラックが標準ディーゼル車の2.55倍となっており、この価格差はヒトやモノの輸送を専業としている事業者にとって、収益に大きく関わる部分として現実的にならざるを得ないところかもしれません。

    また2つ目の理由としてトラックの場合は、長距離輸送に耐えられるスペックの蓄電池が非常に重くて大きく、総重量を圧迫するだけでなく積み荷のスペースも狭くなってしまうなど、エコカーの導入によって逆に業務効率を落としてしまう懸念も挙げられています。

    そして三番目の理由としては、充電に時間がかかることや、商用大型車の充電に適したステーションの未整備が掲げられています。

    国では2025年度の新車販売中の比率約8.6%を目標に掲げ、2019年度から「電動化対応トラック・バス導入加速事業」という名目で補助金を設定し(2021年度=令和2年度の予算総額は約9.5億円)、今年度分はつい先日の1月29日に申請が締め切られましたが、応募状況はどうだったのでしょうか。気になるところです。

    スイス発のアイデアは排出CO2の9割を再利用

    トラックやバスのCO2対策が遅れているのは各国共通のようですが、2019年の12月に電動化ではない『トラックのCO2排出量を90%減らす』アイデアがスイスから発表されました。提案者はスイス連邦工科大学ローザンヌ校(以下、EPFL)研究チームです。

    それはトラックの排気から直接CO2を回収し、キャビンの上に設置したカプセルで液化するという新しいシステムで、液化されたCO2は専用スタンドに持ち込んで従来の燃料に変換され再利用されるというものです。

    スイスのTV番組に出演してキャスターと話すフランソワ・マレシャル博士(右)(画像:RTS

    研究チームを率いるフランソワ・マレシャル博士によれば、「1kgの従来の燃料を使用するトラックは、3kgの液体二酸化炭素を生成する可能性があり、トラックのCO2排出量の約90%を削減できる」そうです。

    この方法ではプロセス自体がほとんどエネルギーを使用しないのも大きな利点となっています。再利用できない残りの10%のCO2に関しても、バイオマスを使うことでオフセット(相殺)させる提案がなされています。

    EPFLが開発した新システムの仕組みは以下のようなものです。

    ①車の排気管内のガスを冷却して水とガスを分離
    ②金属有機構造体(MOF)の吸着剤を使用した吸着システムによりCO2を窒素や酸素から分離
    ③吸着システム内がCO2で飽和したらそれを加熱し純粋なCO2を抽出
    ④車両エンジンの熱を活用して高速ターボコンプレッサーで抽出されたCO2を圧縮して液化
    ⑤液化されたCO2はタンクに保存され再生可能電力を使用しているサービスステーションで従来の燃料に変換

    このプロセスに用いられているのは「温度スイング吸着法(TSA法)」と呼ばれる技術ですが、それは同じ大学のウェンディクイーンが率いるEPFL ValaisWallisのEnergypolisチームによって開発されており、高速ターボコンプレッサーのほうはEPFLのヌーシャテルキャンパスにあるユルグシフマンの研究室によって開発されています。まさにEPFLの総力戦といったところでしょうか。

    開発者のフランソワ・マレシャル博士は「当システムは理論的には、あらゆる種類の燃料を使用するすべてのトラックやバスやボートで機能する」と話しており、カプセルとタンクの重量は車両の最大積載量のわずか7%である点や、既存のトラックに後付けしてCO2排出量を削減できる点が評価されて、幅広い適用が期待されているようです

    高い割合を占める輸送分野のCO2排出量

    上の図は1990年から2016年の間に排出されたCO2の推移を表わしていますが、エネルギー分野、産業分野、住居分野、農林水産分野が軒並み排出量を減らしているのに比べ、輸送分野だけが増加して高止まりしています。

    トラックやバスのCO2排出量を減らすことは、乗用車のEV化や各所での再生エネルギーの導入よりも、それだけハードルが高いということの表れと読み取れますが、欧州では輸送がCO2排出量全体の30%近くを占めており、日本でも18.5%を占めます。

    米国のカリフォルニア州では昨年の9月に「2035年までに全新車のゼロ・エミッションを義務化する」ことが発表されました。カリフォルニア州知事室の発表によると、輸送分野はカリフォルニア州の二酸化炭素汚染の半分以上、スモッグ汚染の80%、有毒ディーゼル排気の95%の原因となっているそうです。そこでトラックに関しても100%の義務化が法律で制定される予定です。

    遅れている大型商用車のゼロ・エミッションは今後どう進んでいくのでしょうか。この分野の電動車の普及には高いハードルがあるのが現状ですが、新しい技術や動向があればまたこちらでご紹介をしていきたいです。

    (ミカドONLINE編集部)


    参考記事:【環境への影響は大きそうだがなぜ?】トラックやバスのEV化が進まない理由とは 脱ガソリン車 戦略と課題 電動化、軽・トラック遅れ 国土交通省 行政事業レビュー公開プロセス説明資料 CO2を液体燃料に。トラックのCO2排出量を90%減らすシステム、スイスの大学が開発 Capturing CO2 from trucks and reducing their emissions by 90% Carbon Dioxide Capture From Internal Combustion Engine Exhaust Using Temperature Swing Adsorption CO2 emissions from cars: facts and figures Un concept pour capturer le CO2 des poids lourds et en refaire du carburant EPFL team develops on-board system to capture CO2 from trucks; reducing emissions by 90% 運輸部門における二酸化炭素排出量 カリフォルニア州が2035年までに全新車のゼロ・エミッションを義務化 など

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