エネマネ最新事情(34) ~EORとは?厄介な二酸化炭素を有効活用できても喜べない理由~

    みかドン ミカどん地球温暖化防止のためCO2の削減が世界中で叫ばれて久しいですが、CO2の排出を抑制するだけでなく、CO2を活用する取り組みも進んでいます。今回はその中からEOR(原油増進回収)についてご紹介します。

    米国で事業化されているEOR

    (画像:Denbury Inc

    日本が近年アンモニア発電に着目して研究・開発に本腰を入れ始めたのは前回お伝えしたとおりです。

    (過去記事)石炭がアンモニアに置き換わる?突然、急浮上したアンモニア発電と日本の商機

    最近の一例では三菱商事が米国メキシコ湾岸で燃料アンモニアの製造を目指し、米国企業との提携を2021年9月21日に発表しました。

    燃料アンモニア製造に向けた米国Denbury社との二酸化炭素輸送、貯留に係る合意について(三菱商事)

    この提携は設備や技術などの合意ではなく、同社が現地でアンモニア製造する際に排出する二酸化炭素(以下、CO2)を米国デンバリー社に回収してもらうというものです。

    デンバリー社は米国メキシコ湾岸に世界最大級の二酸化炭素輸送パイプライン網を有し、同地で20年以上に渡り二酸化炭素を用いたEOR事業を中心に展開してきた会社です。デンバリー社は今後、三菱商事のアンモニア製造で発生したCO2もEORに利用したりCCSとして地下に貯留するそうです。

    CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)は発電所や化学工場などの産業分野で大量に発生するCO2を回収し、砂岩など隙間の多い地中の層に封じ込めてしまうことで、世界的な気候目標の達成に不可欠な排出削減技術と言われています。

    そしてCCSの手法のひとつとして含まれるのが、生産性の低下した油田にCO2を圧入して石油を増産するEORという技術です。

    EORはCO2の圧入で老朽油田に残る粘度の高い原油を採る方法

    (画像:経済産業省

    EOR(Enhanced Oil Recovery:原油増進回収法)は古くなって圧力が落ち、自噴しなくなった油田から残りかす(?)の原油を採掘する方法です。

    もう少し詳しく言えば、圧力が下がって自噴がなくなり、やがてポンプの汲み上げも難しくなり、水やガスなど従来の手法で油井の圧力を上げても、それでも得られない最後の原油を地中から搾り採る方法と言えるかもしれません。

    私はつい最近まで大きな勘違いをしていましたが、油田というのは地中にある広大な原油の”水たまり”ではありません。大きな圧力のかかる地下では液体がまとまった状態で存在することはできず、原油は土圧に押されて岩石の粒子の細かな隙間(孔隙)に入りこんでいます。(その様子はよくスポンジに例えられます)

    土圧の高い新しい油田では油井を掘ればそれが自然に自噴しますが、枯渇した油田では最終的に何をやっても採掘できなった非常に粘度の高い原油が残ります。EORはそこにCO2を圧入して原油の流動性を高める方法なのです。

    CO2は地下で圧力や温度が変化すると、低い粘度を保ちながら液体である油と同等の密度を持つ状態になります。するとCO2が原油と混ざり合うため地上まで原油が移動しやすくなるという原理です。その意味でCO2は原油と親和性が高い物質と言えます。

    油田の一次的な工法で回収できる原油は埋蔵量のわずか5~25%、水や天然ガスを圧入する二次工法でも30~40%程度が限界ですが、EORでは油層の状態によって採取率が55~80%まで上がります。ただしコストがかかるためどこでもOKというわけにはいかないようです。

    EORを進めてもCO2はあまり減らない?

    (画像:電力中央研究所

    老朽化してパワーが落ちた油田にCO2を圧入して粘っこい残留原油を回収するこの手法は今に始まったことではありません。

    EORは1952年に米国で最初の特許が(Method for Producing of Carbon Dioxide L.P.Whorton 2,623,596)認められて以来、半世紀以上にわたる多額の投資や技術開発を経て商業化されている、北米では意外に古い手法なのです。

    なので本来のEORは温室効果ガス削減のために考案されたものではなく、原油採掘時に発生する天然由来のCO2を再利用するものでした。それが近年、CO2の隔離・貯蔵策として有望視され、発電所や化学工場などから排出される人為的なCO2の活用策としても注目されるようになりました。

    2016年の時点では2°目標を達成するために必要なCO2の削減量は全世界で8,000億トンで、理論的にはその1割をEORで減らすことができるそうです。

    けれどよく考えてみればこれは化石燃料である原油を増産する技術なので、EORによって生産された原油は原料や燃料に利用され、最終的には再びCO2を排出することになります。つまり実質的にCO2はそれほど削減されず、温暖化防止への将来的な寄与は不透明と言えます。

    今、世界で進められているCCS(二酸化炭素回収・貯留)の大規模プロジェクトには多くのEORが含まれているので、実際はそれほど効果がないのかもしれません。

    EORはCCSのコストが下がるまでの「つなぎ」という見方が一般的ですが、EORの収益性は原油価格に大きく依存しており、CO2の回収コストにも左右されます。CCSもEORも適正な評価にはまだまだ時間がかかりそうです。

    (ミカドONLINE編集部)


    参考記事: CO2による採油増進法と CO2地下貯留の実践的側面(PDF) 原油増進回収法(EOR)とは何か? 既存の原油を効率的に回収するための技術動向 二酸化炭素排出抑制に貢献し、石油回収率を高める「炭酸ガス(CO2)圧入攻法」 第16回 CCSを考える (4) CO2の有効利用は排出削減に繋がるか? その1 石油増進回収(EOR)

    など

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