エネマネ最新事情(36) ~シンプル&ローコスト!超アナログな重力蓄電はおもりが発電する持続可能なエネルギー~

    みかドン ミカどん皆さんは昔の鳩時計をよく見たことがありますか?私は間近で見たことがなかったので、あの松ぼっくりはギュッと下に引いて巻くネジの取っ手だと思っていました。ですが真相はただのおもりでした。それで時計が動くとは、なんてシンプルな!でも今回はその「シンプル」が新しくて大注目!の重力蓄電のお話です。

    高さにはエネルギーがある

    旧式のアナログ鳩時計をお持ちの方ならご存じですが、鳩時計からぶら下がっているあの松かさのようなオブジェは決してただの飾りではありません。

    アナログ鳩時計ではあの松かさ部分がおもりの役目を持ち、自身の重さで下に落ちて行こうとする力で時計の針(…と鳩)を動かしています。この原理は古い重錘式柱時計にも使われています。

    物理の時間に「高い所にある物体は下に落ちるときに仕事をすることができる」と教わりましたが、こういった位置エネルギーの力は昔から発電にも使われています。

    それが揚水発電(ようすいはつでん)と呼ばれるもので、電力需要が少ない夜のうちに高い位置にあるダム(調整池)に下の池から電気で水を汲み上げておき、電力の需要が増す真夏や日中のピーク時にダムから水を落として発電します。

    この方法は電力の需給バランスの調整に即効性があり、暑かったこの夏も各地で活用されました。

    電力の平準化に期待大

    この揚水発電の仕組みから「これって水でなくてもいいのでは?」と思い付き、重力蓄電のベンチャーを立ち上げて世界中から注目を集めている会社があります。スイスとアメリカに本拠地があるエナジー・ボールト(Energy Vault)社です。

    エナジー・ボールトが提唱した当初のシステムでは、水の代わりにひとつ35トンのコンクリートブロックを使います。引きあげる方式は2つあり、ひとつはタワー型。もうひとつはビル型です。

    タワー型では屋上にクレーンが置かれ、クレーンでブロックを積み上げていくことが”充電”に当たり、これを使うまで高い位置においたままにしておくことが”蓄電”に相当します。それを下に落とすときにクレーンの機械式モーターが回って発電するというしくみです。

    「なんだ、ブロックの積み上げには結局電気を使うんじゃないか?」と思われた方も多いと思いますが、太陽光発電が普及してきた現在では、電力不足だけではなく真夏や日中の「電気のつくり過ぎ」も大きな課題です。万が一、需要以上の電力が送電網に流れてしまうと最悪の場合、大停電を引き起こすからです。

    そのため、太陽光発電の余剰電力をできるだけ消費して需給バランスの平準化をはかるアイデアが現在さかんに出されています。中でも今回の重力蓄電は”超アナログ”的な発想ゆえに、しくみが簡単で環境にも優しくコストも削減できる新しいシステムとして注目されているというわけです。

    商業用実証設備が稼働を開始

    そしてこの写真がエナジー・ボールト社がイタリアとの国境に近いスイスのティチーノ州アルベドカスティオーネに実際に建設した商業用実証施設です。先の動画とは少し雰囲気が違いますが、現実的にはこの形になったようです。運用はすでに昨年から始まっており、イギリスのスコットランドでも同様の設備が稼働予定とのこと。

    この施設では、高さ110メートルのタワーに設置された6本のクレーンで重さ35トンのコンクリートブロックを上下に運動させ、最大80メガワット時のエネルギーを貯蔵できる重力エネルギー貯蔵システムです。コンクリートを用いることから「コンクリートバッテリー」とも呼ばれています。

    コンクリートバッテリーで用いるコンクリートは廃棄されたコンクリートを再利用して作られているため、環境への負荷が少なく、また、リチウムイオンバッテリーと同じ量のエネルギーを半分のコストで貯蔵することができます。さらに、リチウムイオンバッテリーは徐々に劣化し交換が必要となりますが、コンクリートバッテリーでは交換の必要がないという、まさに持続可能なSDGs的手法です!

    巨額の資金調達を得て上場、今後は広範囲の世界展開へ

    その発想のシンプルさとコスパの良さが評価されて、同社は2019年にソフトバンク・ビジョン・ファンドから1億1000万ドルの資金調達を得て、昨年もプライム・ムーバーズ・ラボ主導のラウンド(ソフトバンクも参加)で1億ドルの資金獲得に成功しました。

    また7月にはノーバス・キャピタル・コーポレーションIIとの合併も発表され、ニューヨーク証券取引所に上場予定(2021.07月時点)です。

    エナジー・ボールト社は今後はこのシステムを広範囲に世界展開させていく方針で、欧州、中東、オーストラリアでは2022年に導入が開始される予定です。

    こうした蓄電技術は再エネの拡大とともに広がりを見せており、海外では2019年以降建設ラッシュがおき、発電設備が2.5倍になりました。米国エネルギー省によれば、中国で100GW、米国で52.5GWが数年のうちに設置されるそうです。

    揚水式水力発電よりも建設コストが安く、リチウムイオン電池よりも環境にやさしく低コスト、建設も容易でスケーラブルなこの重力蓄電は日本でもこれから脚光を浴びる次世代(?)技術に違いありません。

    (ミカドONLINE編集部)


    参考/引用記事:古くて新しい「重力蓄電」は日本でも普及する? ベンチャーが新発想で参戦 GRAVITY ENERGY STORAGE WILL SHOW ITS POTENTIAL IN 2021 エナジー・ボールトがソフトバンク・ビジョン・ファンドから1億1000万ドルのシリーズB資金調達を完了 エナジー・ボールト、1億ドルのシリーズC資金調達を発表 低コストなエネルギー貯蔵手段として注目される「重力エネルギー貯蔵システム」とは? 電力網規模の重力式エネルギー貯蔵で世界の脱炭素化を加速するテクノロジー企業のエナジー・ボールトが、ノーバス・キャピタル・コーポレーションIIとの合併によりニューヨーク証券取引所に上場へ など

    記事一覧