ソーラーシェアリングで農家に新たな収益を。営農型発電に取り組む(株)メカニック佐藤社長にお話を伺いました

    みかドン ミカどん皆さんはソーラーシェアリングをご存じですか?田畑の上に太陽光パネルを設置して農業を継続しながら太陽光発電からも収益を得るしくみです。営農型太陽光発電とも呼ばれるこのシステムを庄内地方で初めて(山形県では3例目)導入したのが株式会社メカニック(酒田市)の佐藤社長です。今回は当社代表取締役の沢田が株式会社メカニックの佐藤優(まさる)代表取締役にお話を伺いました。まず同社が作成した以下の動画をご覧ください。

    (株)メカニックは製缶とプラント工事を得意とする会社さんです

    株式会社メカニック(山形県酒田市)はタンクなどの製缶加工から事業を起こし、現在では製缶品のほか浄水場や下水処理場のプラント設備、農業水利設備、地域の環境施設等の設計・製作・工事も行っている会社です。

    同社では工場の改築を機に太陽光発電を屋上に設置し、2016年(平成28年)から売電事業を開始。昨年(2021年)は佐藤社長が保有している農地でソーラーシェアリング(ひらた石橋ソーラーファーム)にも着手し、その取り組みが評価されて山形県環境保全推進賞「山形県知事賞」を受賞しました。さてソーラーシェアリングとはいったいどんなものなでしょうか?

    初めての試みでしたが予想以上の発電量でした

    ひらた石橋ソーラーファーム。作物の育成に大きな影響を与えない短冊形のソーラーパネル

    沢田 昨年からひらた石橋ソーラーファームとしてソーラーシェアリングを始められて今年は2年目ですが、実際に取り組まれていかがですか?

    佐藤社長 正直、発電量がこんなにいくとは思っていなかったです。ひらた石橋ソーラーファームはシステム容量が49.5Kwで推定年間発電量が80,000Kwhなのですが、昨年(2021年)の5月28日に運転を開始してからこの1年で約85,000Kwhの発電量になりました。売電価格も約170万円になり印象としては予想以上でした。

    栽培品種は山形のブランド米「はえぬき」です。お米のほうも遜色のない出来で、見た感じ・食べた感じでは外観も食味も従来のものと全く同じです。ただ、ごく厳密にデータを計測すると若干の差異はあるようです。

    収量はソーラー設置前と比べて約9%減少しました。これは架台の柱と柱の間に稲を植えていなかったのでそのためだと思われますが、昨年はお盆以降に日照不足が続いたのでそちらの影響があるのかもしれません。今年は柱間を手植えして前年以上の収量の増加を見込んでいます。

    沢田 田植えなどは普通に機械でできるんですね?

    機械が入れる幅と高さ(写真提供:メカニック様)

    佐藤社長 はい、高さが3.4m(補強の筋交いまでは2.8m)柱間が4.2mありますので農業機械も入れます。田起こしも田植えも機械でやっています。

    初めての試みなので本当は不安もあったんです。普通の太陽光発電なら会社として実績がありますが、架台を建てるのが田んぼですし、何よりこの短冊形の細いパネルが庄内の風と雪に耐えられるのか?とか、これで本当に必要な発電量が得られるのか?とか。

    ですが強風と豪雪という当地と似た環境でソーラーシェアリングをやられている秋田県のアイセスさんを見学させていただいたことで”大丈夫じゃないか?”という気がしてきました。

    昨冬は雪が多かったのですがパネルの上には雪が積もりませんでしたし、低量ながら冬も発電していたので”やってよかった”と思いました。たとえわずかであっても「寝ていても収益」ってすごくないですか?(笑)

    若い人たちに農業の魅力と可能性を感じてほしい

    ソーラーファームを背景に中央が佐藤社長、左が総務の池田さん、右が当社の沢田

    沢田 製缶やプラント設備に関わっているメカニックさんがソーラーシェアリングを始めようと思ったきっかけは何だったのですか?

    佐藤社長 自社工場の屋上に太陽光発電も設置していますし、以前から再生可能エネルギーには関心があって、情報収集はしていました。

    ですが直接のきっかけは、「やまがた自然エネルギーネットワーク」を主宰されている三浦秀一先生(東北芸術工科大学教授)のお話を聞いたことです。

    三浦先生は地域の活性化につながる自然エネルギーを広める活動をされていて、その方とうちの父が非常に懇意にさせていただいており「うちでも何かやりたい」という話を父とよくしていたんです。

    ソーラーシェアリングを知ったのも三浦先生がきっかけです。この庄内地域は農業が非常にさかんな土地柄ですが、現在、ほ場整備や田んぼの区画の見直しなどを行う大きな動きがあります。当社は農業用水のポンプ設置工事など農業水利設備にシフトしてきた経緯もあり、農業分野に貢献したいという気持ちでソーラーシェアリングをやってみたいと思いました。

    ご存じですか?今、農業従事者の平均年齢って70歳なんです。このままでは農家をやる人が誰もいなくなってしまいます。ソーラーシェアリングで農業をしながら売電収入が得られたら新たな収益になりますし、若い人に農業の魅力や事業の可能性を感じていただくためにも、うちがそのモデルケースになりたいと考えました。

    山形県は県の施策として企業が行う持続可能な農業を推進しています。建設業が農業をやると総合評価が加点されるんです。そういった意味から本業にもメリットがあると判断して決意しました。

    架台が建っている杭の部分が農地転用なんです

    大画面テレビで動画を拝見しながら佐藤社長のお話を伺う

    沢田 メカニックさんにとって農業は異業種になると思うのですが、ハードルが高かったのではないですか?

    佐藤社長 確かに農地法で田んぼは農家の資格(農地を保有して農業を営んでいることなど)がないと売買できないなどいろいろな制約がありますが、実は自分は農家の資格があったんですよ。

    今から10年以上も前に庄内地区で国営農地開発事業があり、そのときに平田町とのつながりで畑を購入していたんです。そのときは農家の資格ということはまったく考えていませんでしたが、その畑を持っていたことで「田んぼを売りたい」と言っている方から数年前に今の農地を買うことができました。

    稲作は委託で行っていますが、実際に従事しているのは前の持ち主のときと同じ指導農業士の方です。ソーラーシェアリングの設備があると農業機械の運転に気を遣うので本当はやりたくないかもしれないんですけどね(笑)

    ですがこの仕事は山形県・山形大学とタッグを組んだ産学官連携の事業でもありますのでチャレンジ精神を持って快く協力していただいています。

    沢田 ソーラーシェアリングを始めるためにまずどこから着手されたのですか?

    佐藤社長 農業委員会への相談です。農地は国の制度によって厳重に守られていますが、2013年の農地法改正で農地の転用条件が緩和され、農地の一部転用が認められるようになりました。それでソーラーシェアリングも可能になったんです。ですのでまず農地の一部転用の申請をしなければなりません。

    当然、太陽光発電の申請もその前に済ませておく必要がありますが、当社はすでに工場の屋上やグループ会社の敷地で太陽光発電を行っているのでそちらは経験済みでした。

    🌍(参考)ソーラーシェアリングを始めるには – 神奈川県ホームページ

    農業委員会には架台の杭の部分の面積を申請して3年ごとの更新になります。杭が何本というその部分が農地転用なんです。

    沢田 そうなんですか!上のパネルの部分は関係ないんですね?

    佐藤社長 そうなんです。極端な話、設備がもし宙に浮いて接地していなければ農地には影響がないということになりますね(笑)

    編集部 それは知りませんでした。そういうことなんですね?

    ※農業委員会
    農地法に基づく売買・貸借の許可、農地転用案件への意見具申、遊休農地の調査・指導などを中心に、農地に関する事務を執行する行政委員会として市町村に設置されています。

    庄内の美味しいお米を地域のために

    遠くに鳥海山を望むひらた石橋ソーラーファーム全景(写真提供:メカニック様)

    編集部 ソーラーシェアリングは飼料用米などの農作にも向いているように思ったのですが?

    佐藤社長 そうかもしれませんが、自分としてはこの庄内でとれた美味しいお米をたくさんの人に食べてほしいんです。それが農家さんのやる気や生きがいにもつながると思っています。

    総務の池田さんにお米の外装を見せていただきました

    当社では地域貢献の一環として学校や児童養護施設にお米を寄贈しています。

    保有している8反歩の田んぼのうちソーラーは一部ですが、農地全体から収穫したお米に専用のラベルを貼って得意先にお配りしたり、取引先の企業さんにこの田んぼから収穫したお米を買っていただくオーナー制度もやっています。それによって企業さんはSDGsにも貢献できます。人が食べるお米だからこそ付加価値を上げたり、そういう展開もできるんです。

    今日はお米の発送や販売のとりまとめを担当している総務の池田さん(昨年入社)にも同席してもらっています。

    編集部 池田さん、取り組んでみていかがでしたか?

    池田 ソーラーシェアリングは入社して初めて知りました。当社のお米は酒田市のふるさと納税返礼品にも採用されていますが、実はふるさと納税のしくみもこちらに来てから知ったんです。まだ1年しか業務に従事していませんが、入社してからは新しい発見ばかりです。美味しい庄内のお米を滞りなく皆さんにお届けできるように頑張りたいです。(一同拍手)

    沢田 池田さん、ありがとうございます。佐藤社長、最後にひとことお願いします。

    佐藤社長 はい。残念ながら固定価格買取制度の売電単価がどんどん下がっているので、これからのソーラーシェアリングで収益をあげることは難しくなってきています。

    ですが自家消費型であればまだまだ可能性があります。現在化石燃料(軽油)で動いている農業機械の電動化が進めばそちらのバッテリーに電気を供給できますし、ほかの機械も同様です。ただ通常は農地と作業場(自宅など)が離れているので送電の課題も出てくるのですが、いずれにしても私は農家の皆さんに新しい農業のスタイルを模索してほしいんです。

    ただライスセンターに持って行って集荷して出すだけじゃなく、様々な工夫をすることによって、もっともっと農業は持続可能で魅力のある事業に変わっていくと思います。

    沢田 農業分野に関わる方のお話を伺う機会があまりないので、どのお話も大変参考になりました。庄内で暮らす佐藤社長の地域への熱意も心に響きました。このたびはどうもありがとうございました。

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    みかドン ミカどん【編集部より】ミカド電装商事は佐藤社長のご主旨に賛同し、ひらた石橋ソーラーファームの共同オーナーになりました。秋に送られてくる山形のブランド米「はえぬき」が楽しみです。初めて伺う農業のお話が非常に興味深く、総務の池田さんの言葉をお借りすれば、私も「新しい発見の連続」でした。佐藤社長、池田さん、本日はありがとうございました。


    取材先:株式会社メカニック様(山形県酒田市)
    *佐藤優(さとうまさる)様/株式会社メカニック 代表代表取締役
    *池田乃望(いけだのの)様/株式会社メカニック 総務部
    取材日:2022年5月25日
    取材者:ミカド電装商事株式会社 代表取締役 沢田秀二 ミカドONLINE編集部