驚異のエネマネ新技術(01) ~大気中の二酸化炭素をガソリンに変えてしまおう!~

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    (画像:カーボン・エンジニアリング社のYouTube動画より)

    今、世界では化石燃料の燃焼によって毎年400億トン近くの二酸化炭素が大気に排出されています。二酸化炭素は赤外線を吸収して熱を逃がさない性質をもつため、二酸化炭素の増加に伴って地球がどんどん温暖化しています。鉄鍋よりも土鍋の料理が冷めにくいように、保温効果のある物質が地球上に増えて厚みを増すと、地球は宇宙に熱を放出しにくくなり気温がどんどん上昇していきします。

    そのため、二酸化炭素の排出をできるだけ抑えることが世界の大きな緊急課題となっていますが、今回ご紹介するのは「元を断つ」のではなく、大気中から二酸化炭素を取り出そうという発想です。

    空気中の二酸化炭素を低コストで吸収

    昨年(2018年)カナダのカーボン・エンジニアリングという会社が空気中の二酸化炭素を低コストで吸収する新技術を発表しました。空気から二酸化炭素を取り出す技術はすでに確立していますが、問題はそのコスト。

    従来の方法では1トンの二酸化炭素を得るのに600ドルかかっていましたが、それを1/6の100ドルまで下げる技術開発に成功したそうです。今までは取り出す量が増えるほど大きく赤字がかさむため、二酸化炭素の削減方法としては全く現実的ではありませんでしたが、100ドルを切る可能性が示唆されたことで、実用化も視野に入って来ました。

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    (カーボン・エンジニアリング社のYouTube動画より)

    同社の技術では、送風機によって工夫が施された冷却塔に空気が運ばれ、二酸化炭素と反応する液体に接触します。その後いくつかの工程を経て、より純度の高い二酸化炭素が抽出され、二酸化炭素と反応する液体は空気接触器に再び戻されます。

    しかしここでまた問題が発生します。取り出した二酸化炭素をどうするか?という、要するに使い道の部分です。少々お金を払ってでも二酸化炭素が欲しいという人がいれば別ですが、どうやらそういうニーズはないようです。

    二酸化炭素でガソリンをつくろう!

    そこでカーボン・エンジニアリング社は取り出した二酸化炭素でガソリンをつくってしまおう!という画期的なアイデアを生み出しました。そもそもガソリンやメタノールなどの燃料は、炭素と水素が結びついたものなので、回収した二酸化炭素を水から得た水素と合成させれば液体燃料の生産が可能です。そして将来的に、その際に必要な電力を太陽光や風力などの再生可能エネルギーから補えば、カーボンニュートラルな液体燃料ができあがります。

    この液体燃料からガソリンやジェット燃料などをつくり出して、カーボンフリーなエネルギーとして売り出すことを同社は目論んでいるようです。現行の生産量は1日1バレルだそうですが、肝心のコストの部分は同社最高経営責任者のスティーブ・オールダム氏がインタビューのなかで、

    「今のところは1バレルの原油よりも費用がかかりますが、カリフォルニア州のように低炭素燃料基準があるような地域で、排出量1トンにつき200ドルの『炭素価格』がつくようになれば、十分競争できると思います」

    (出典:ナショナルジオグラフィック

     

    と語っています。

    実はカナダには炭素税が導入されており、二酸化炭素を排出する企業がその排出量に応じて支払う『炭素価格』というものがあります。それが炭素フリーの燃料をつかうことによって減額されるのであれば、最終的に高い合成燃料をつかってもペイできるのではないか?という考えです。

    けれど、一大消費国のアメリカでは昨年、ワシントン州の炭素税が住民投票で否決されてしまいました。ハーバード大学応用物理学教授で、カーボン・エンジニアリングの創設者でもあるデビッド・キース教授は「我々が失敗する可能性はあらゆるところに転がっている」と語り課題の大きさを痛感しています。

    画期的なアイデアの実現をめざし現在大規模工場建設中

    (カーボン・エンジニアリング社のYouTube動画より)

    大気中からの二酸化炭素抽出はすでに複数の研究機関が実証実験を行っていますが、それらはすべて、取り出した二酸化炭素を個体にして地中に埋めるというものだったため、液体燃料として再利用しながら二酸化炭素を循環させる今回のアイデアは新しい試みとして話題になりました。

    カーボン・エンジニアリング社は現在、投資家を募り、低コストの再生可能エネルギーを使って1日に200バレルの合成燃料を製造する大規模工場を建設中です。2020年の操業開始を見込み、この技術をライセンス化することも検討しているとのこと。

    ここに至るまでにも、3000万ドルの投資や8年におよぶ開発作業を要した同社ですが、規模拡大による低価格化は見込めるのでしょうか?ちなみに同社は2009年に、マイクロソフトのゲイツ氏やカナダのオイルサンド産業に投資するノーマン・マリー・エドワーズ氏から出資を受け設立されました。今後の展開が注目されますね。

    最後になりますが、エアコンの室外機のような巨大装置が立ち並ぶ写真は想像図だそうです。