驚異のエネマネ新技術(02) ~洋上風力発電はどうやってつくるの?~

    洋上風力発電ができるまで.00_03_21_24.静止画001

    昨年(2018年/平成30年)11月末日に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」が国会で可決され、12月7日に公布されました。これは洋上風力発電事業のあり方を国が管理するために策定された法律です。
    洋上風力発電は、近年ヨーロッパで導入とコスト低下が急速に進んでおり、直近5年間で導入量が3倍以上に増えました。日本では、急激に深くなる海底の地形や、台風、地震などがネックとなって、この分野では世界に大きく後れを取っていましたが、法律の整備により今後は国の主導で導入が進んでいくものと思われます。

    洋上風力発電はどうやってつくるの?

    洋上風力発電は、海の上に設置した風車を回して発電する方式です。浮体式と着床式がありますが、世界的には海底に基礎を打って建設する着床式が主流です。洋上は、陸上に比べて一般的に風況が良く、土地制約や輸送制約が少ないため大きなタービンの利用やプロジェクト規模の大型化が可能であり、大型化すればするほど発電コストが下がります。しかし不便な海上での作業は天候にも大きく左右されるため、建設の難度が高くリスクも大きいです。

    洋上風力発電はどうやってつくるの?.mp4_000049015着床式の洋上風力発電はいったいどうやってつくられるのでしょうか?簡単に書くと、陸上から船で個々のパーツを運び海上で組み立てていくスタイルです。
    洋上風力発電建設工事の主役となるのがSEP(セップ)船と呼ばれる台船で、海底に長い脚を下ろし船体をジャッキアップさせて、波の影響を受けずに風車や精密機器を据え付ける作業を行います。(SEP:Self-Elevating Platform=自己昇降式作業台船)

    船を丸ごと海面から持ち上げてその状態でクレーン作業を行うなんて、本当にすごいですよね。そんなことが可能だなんて、今まで思ってもみませんでした。ですがヨーロッパではこういった風車取付けの専用SEP船が1日数千万円という高額の用船料で、毎日どこかの海で洋上風力発電設備を建設しているのです。

    実際の作業のイメージは、SEP船が洋上風力発電設備を設置していく様子を描いた、シーメンス社の以下の動画を見ていただければ、よりわかりやすいと思います。

    風が吹けば「船」屋がもうかる

    さて、このSEP船ですが、洋上風力発電の普及が進んでいるヨーロッパでは、20隻以上の専用船がフルに稼働していますが、日本ではSEP船が国内に数隻しかありません。しかも専用船ではないためクレーンがなく、2011年から2013年にかけてNEDOの実証実験を受注した五洋建設では、当時はまだ前例がなかった外洋での風車建設に関して以下のように述べています。

    洋上風力発電のマーケットが成熟している欧州とは違い、風車据付専用船が存在しないことや、風車部品やクローラークレーンをSEP船に積み込む際に岸壁の耐力が不足するなど港湾インフラの面で厳しい状況ではあったが、発注者や協力会社、関係各署の協力のもと、2013年3月23日、洋上風車が完成した。

    五洋建設HPより)

    しかしその状況にようやくピリオドが打たれました。2017年、五洋建設が兵庫県相生市にある造船大手ジャパンマリンユナイテッド(JMU)に風車取付専用のSEP船を発注し、ついに昨年(2018年)12月に船が完成したのです。

    船の名前は「CP-8001」で総工費は約140億円。欧州のSEP型洋上風力発電施設設置船の7割以上を手掛けるGustoMSC社(オランダ)が基本設計および油圧ジャッキシステムの製作を行い、欧州を代表するクレーンメーカーであるHuisman社のクレーンを搭載した国内初の大型クレーン搭載のSEP船とのこと。(「CP-8001」に関してはこちらの動画をご覧ください)

    五洋建設では、ほかにも洋上風力発電事業への参入を目指す大林組などから、800トンづりクレーンを備えたさらに大型のSEP船を受注しており、ここにきてにわかに造船業界が活気づいてきました。

    同社が「商船のようにどこでも造れる船ではない。うまくいけば収益面でも貢献が大きい」と語るように、再エネ拡大の機運に歩調を合わせて大きな受注が動き始め、国内の造船各社にとっては願ってもない商機が訪れ始めた模様です。

    また洋上風力発電では、専用船だけでなく特殊な部品や素材が必要なため、新たなサプライチェーンが生まれ、新しい市場を狙った投資やM&A(合併・買収)も出始めているようです。

    昔から、風が吹けば桶屋が儲かると言いますが、この風は様々な新旧産業のどんな追い風になるのでしょうか。今後もまた新しい動きがあれば、随時お知らせしていきたいと思います。

     

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